
2026年(令和8年)12月25日に施行される「こども性暴力防止法」(日本版DBS)では、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者が国の認定を受ける際、犯罪事実確認の体制だけでなく、現場での具体的な安全確保措置が整っているかが確認されます。本制度は単に従事者の前科を確認するだけの仕組みではなく、日常的な未然防止や早期把握、相談・対応体制の確立が求められます。本記事では、認定申請の実務において重要となる安全確保措置の取り組みについて、現場の視点から整理して解説します。なお、本記事で取り上げる4つの取り組みは実務上の整理に基づくものであり、制度全体の要件がこれらのみに限定されるわけではありません。(出典:こども家庭庁「児童対象性暴力等の防止等に関する横断的指針」)
1. 早期把握措置:日常の観察・面談・アンケートと報告ルール
子どもに対する性暴力等の兆候や不適切な行為を早期に把握するため、事業者は日常の観察に加え、面談やアンケート、そして組織内の報告・対応ルールを整える必要があります。
日常観察と面談・アンケートの実施
子どもの心身や行動の変化に日頃から気を配るとともに、子どもの年齢、発達段階、個別の特性に応じた面談やアンケートを定期的に実施します。未就学児の場合は質問用紙による回答が困難なため、日常の見守りや会話、保護者との日頃のやり取りを通じた状況把握が中心となります。小学生以上を対象とする場合は、周囲から回答が見えない配慮(個別回答やチェックシートの活用など)を行い、安心して気持ちを伝えられる環境を整えます。
報告ルールおよび対応ルールの策定・周知
兆候や違和感を把握した際に現場が迷わず動けるよう、誰に、どのような手順で報告するかを明確にします。責任者や管理職が関与している可能性も想定し、複数の報告ルートを検討しておくことが大切です。また、報告を受けた後の対応体制や初動の手順についてもあらかじめ定めておきます。
2. 相談体制の整備:内部体制と外部窓口の周知
子どもや保護者が相談しやすい環境を整えるため、事業者は内部の相談体制を設けるとともに、公的な外部相談窓口を周知する義務を負います。
事業者内の相談員・窓口と外部機関の案内
事業者内において相談員を選任するか、または相談窓口を設置し、子どもや保護者に分かりやすく周知します。相談員の性別への配慮や、手紙・メール・専用フォームなど文字による相談手段の提供も有効です。あわせて、「24時間子供SOSダイヤル」や「こどもの人権110番」、児童相談所などの公的な専門相談機関の連絡先を施設内や配布物等で案内します。
相談対応におけるプライバシーと情報共有の考え方
相談を受けた際は、相談者の心情やプライバシーに十分配慮し、相談したことを理由に不利益な扱いを受けないことをあらかじめ明示します。ただし、現場で「誰にも言わない」という絶対的な秘密保持を一律に約束することは適切ではありません。子どもの生命・身体の安全確保や再発防止のために必要な範囲において、事業所の責任者や関係する専門機関、警察等と適切に情報を共有しながら対応を進める方針を、相談者に丁寧に説明しておく必要があります。
3. 従事者研修の実施:座学と演習の組み合わせ
対象業務に従事する職員(アルバイト等を含む)に対しては、性暴力の未然防止や適切な対応に関する研修を受講させることが求められます。研修は単なる講義形式にとどまらず、事例検討やロールプレイングなどの演習を組み合わせることが基本となります。
研修カリキュラムの主な項目
研修では、業務の実情に合わせて主に以下のような内容を取り上げます(これらは主な検討項目であり、研修内容のすべてを網羅するものではありません)。
- 子どもの尊厳と性暴力防止に関する基本的な理解
- 業務上注意すべき「不適切な行為」(私的な連絡先交換、密室での1対1対応など)の範囲と具体例
- 子どもの発達段階に応じたコミュニケーションや日常の見守りの視点
- 事案や疑いが生じた際の初動対応手順および関係機関との連携
- 犯罪事実確認の手続きと機微情報の適正な管理
研修を実施した際は、実施日時、形式、研修内容の要点、受講者の氏名や役職などを記録として作成し、適切に保管しておく必要があります。
4. 児童対象性暴力等対処規程の策定
認定対象事業者は、認定申請の添付書類として「児童対象性暴力等対処規程」を作成する必要があります。この規程には、予防のための行動基準、兆候を把握した際の調査手順、被害を受けた子どもへの支援方針、保護者への対応手順、就業規則との整合性を確保した防止措置(配置転換等)の枠組みなどを盛り込みます。作成にあたっては、自社の事業形態や施設レイアウト、勤務体制に即した実効性のある内容に仕上げることが重要です。
専門家による支援と当事務所のサポート体制
安全確保措置の体制整備や規程の作成は、各事業者が自社で進めることができますが、社内の準備状況や人員に応じて外部の専門職を活用することも実務的な選択肢です。
当事務所では、代表が「行政書士」「社会保険労務士」「公認心理師」の3つの国家資格を保有しており、各資格の法定業務範囲内において、認定申請書類の作成支援、就業規則の改訂、心理的配慮を取り入れた研修プログラムの企画などを一元的にサポートしています。
まとめ
民間教育保育等事業者における認定取得は、法令に定める安全管理体制を整え、適正に運用していくための取り組みです。認定マークの表示は、法に基づく体制を整えていることを対外的に示すものであり、将来の無事故を保証するものではありません。認定後も対策の実施状況を点検し、改善を続けることが必要です。2026年12月25日の施行に向け、自社の実態に合わせた体制づくりを計画的に進めてください。
※本記事の内容は、令和8年1月27日時点におけるこども性暴力防止法施行ガイドラインおよび横断指針の公表資料に基づいています。