
こども性暴力防止法(令和6年法律第69号)に基づく防止措置を進める際は、施設内の運用ルールだけでなく就業規則をはじめとする労務管理の見直しが欠かせません。従事者の採用、配置、懲戒、研修などは労働契約の根幹に関わるため、防止措置を実施する場合でも労働関係法令の枠組みを遵守する必要があります。施行日の令和8年12月25日に向けて、労務管理と整合性のとれた体制を整えておくことが大切です。
最新の制度概要や各種ガイドラインは、こども家庭庁のこども性暴力防止法 公式ページで確認できます。
就業規則と連携させて防止措置を設計する理由
子どもの安全確保を目的としたルールと、人事・労務上の権限や根拠が一致していないと、いざ事案が発生した際に現場の対応が停滞してしまいます。日本版DBSによる犯罪事実確認の実務を進めるにあたっては、就業規則、労働条件通知書、内定通知、懲戒規定などを一つの整合した体系として点検する必要があります。
ただし、法に基づく防止措置を導入したからといって、内定取消や解雇、懲戒処分が無条件に法的に有効となるわけではありません。客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が求められる労働法制の原則を踏まえ、慎重に制度を設計してください。
就業規則で検討が推奨される主な条項例
事業者の実情に応じて就業規則へ盛り込むことが検討される項目には、主に以下の点があります。以下は条項を検討する際の例です。必要な措置や規定内容は、法令と自社の雇用・運営実態に照らして確認してください。
- 防止措置への協力や関連研修の受講を業務上の指示・義務として位置づける規定
- 児童等に対する不適切な行為や性暴力等を懲戒事由として明確化する規定
- 事実関係の調査に対する協力義務や虚偽報告の禁止
- 疑いが生じた際など、業務上必要となる配置転換や一時的な業務停止の根拠規定
- 犯罪事実確認の結果を含む個人情報について、法で認められた目的以外での利用を禁止する規定
- 通報者に対する不利益な取扱いの禁止と相談窓口の周知に関する規定
採用時および在職者への適用における留意点
採用段階においては、犯罪事実確認への協力や誓約書の提出を条件とする場合、募集要項、求人票、内定通知書、労働条件通知書の記載内容にズレがないかを確認します。確認結果のみをもって機械的に内定を取り消すのではなく、取消事由の妥当性や本人への弁明の機会、代替配置の余地などをあらかじめ整理しておく必要があります。
また、在職者に対して確認や研修の受講を求める場合は、業務命令の範囲や労働条件の変更に関わる点に留意が必要です。不利益変更に該当する可能性がある場合は、丁寧な説明や同意の手続き、経過措置の導入などを検討し、労働者代表への意見聴取や改訂スケジュールの共有を適切に進めてください。
各種規程とルールの適切な役割分担
社内文書を作成する際は、それぞれの役割を整理しておくと現場での運用がスムーズになります。
- 就業規則:服務規律、懲戒、配置転換、個人情報保護の基本方針など人事上の根拠を定めます。
- 報告・対応ルール(義務対象・認定対象共通):不適切な行為の疑いを把握した際の報告先や初期対応の手順を定めます。
- 児童対象性暴力等対処規程(認定対象事業者のみ):認定基準に基づき、予防、調査、被害児童等への支援手順を体系的に規定します。義務対象事業者は作成不要です。
- 情報管理規程:システム利用権限や確認結果等の記録の保管・廃棄方法を定めます。
- 研修計画:採用時や定期的な研修の実施内容、受講履歴の記録方法をまとめます。
実務上の改訂前チェックと不適切な運用の防止
規程類を見直す際は、懲戒事由が具体的に示されているか、調査や業務停止の規定が過剰な制限になっていないか、委託契約先にも同等の注意喚起が行き届いているかなどを確認します。また、電子システムやIDを管理する担当部署と、人事・労務担当部署との間で連絡体制を整えておくことも大切です。
防止措置を優先するあまり、十分な事実確認を行わないまま氏名を公表したり、私用端末の無制限な提出を求めたり、確認結果を法で認められた目的以外で利用したりする運用は避けてください。あくまで関係法令の定めに沿った適正な手続きを守ることが求められます。
事前準備の進め方とご相談窓口
規程の改訂後は、現場で事案が発生した想定で初期対応から配置転換、保護者対応までの流れを確認しておくと、手順の不備を発見しやすくなります。小規模な事業者においては、まず懲戒事由の明確化、研修受講の義務づけ、通報者保護、個人情報の適切な管理の4点から優先して着手することをおすすめします。
就業規則の改訂や各種ルールの策定に関するご相談は、お問い合わせフォームからどうぞ。