日本版DBSの規程整備|「子どもの権利」を土台にする3つのポイント

日本版DBSの規程整備|「子どもの権利」を土台にする3つのポイント

令和8年12月25日のこども性暴力防止法の施行(日本版DBSの開始)が近づき、学習塾やスポーツ教室、放課後児童クラブなど、認定の取得を目指す事業者からは「就業規則をどう直せばよいのか」というご相談が増えています。

規程整備というと、ひな型の条文を差し込む作業を思い浮かべがちです。しかし、条文を整えるだけでは、現場で迷ったときの判断の拠り所にはなりません。この記事では、日本法令「SR」第82号に寄稿した内容をもとに、「子どもの権利」を土台にした規程整備の考え方と、具体的な3つのポイントを解説します。

1.なぜ「子どもの権利」から考えるのか

従来の労務管理は、会社と従業員という「労使の二者関係」を前提にしてきました。しかし日本版DBSの対応では、そこに「子ども」という第三の当事者が加わります。

こども性暴力防止法の施行規則では、従事者に受けさせる研修の内容の一つとして、児童対象性暴力等の防止に関する基礎的な事項が定められ、そこには「児童対象性暴力等が生じる要因」と並んで「こどもの権利に関する事項」を含むことが明記されています(施行規則19条3項1号)。つまり、「どんな行為が禁止されているか」を覚えるだけでなく、「なぜそれが問題なのか」、すなわちその行為が子どもの人格や権利を侵害するおそれがあるという理解が、制度の根っこに置かれているのです。

教育・保育の現場では、愛着形成に必要と考えたスキンシップや、熱心さゆえの業務時間外の個別連絡が、子どもや保護者に不安を与え、紛争に発展することもあります。ルールが曖昧なままだと、職員が無自覚に「適切な行為」の境界を越えてしまうおそれがある一方で、身に覚えのない疑いをかけられるリスクも生じます。規程整備は、子どもを守ると同時に、職員を守るためのものでもあるのです。

子どもの権利条約が掲げる「子どもの最善の利益」や「意見表明」といった理念は、今後、現場の判断の枠組みとして参照される場面が増えると考えられます。規程を整える側も、この理念を出発点にしておくことが大切です。

2.ポイント① 「子どもの声聴取制度」を取り入れる

就業規則を作成・変更するときは、労働基準法90条にもとづき、労働者代表の意見を聴く必要があります。日本版DBSに関連する規程は、子どもの安全に直接関わるルールでもあります。そこで、労働者代表からの意見聴取に加えて、子ども自身の声を聴く仕組みを設けることが望ましいと考えます。

方法としては、次の2つが考えられます。

  • アンケート制度:改定予定の服務規律などを子どもにわかりやすい言葉に言い換え、意見を書いてもらう。多くの事業所で導入しやすい方法です。
  • 第三者を介した意見聴取:子どもの意見表明支援(子どもアドボカシー)を学んだ第三者や職員が聴き取る。理想的ですが、研修の時間や費用が課題になります。

アンケートを行う際は、①子どもが理解できる言葉にする、②職員と子どもの双方に目的を説明する、③無記名にし、筆跡などから本人が特定されない工夫をする、④反映できた点・できなかった点を子どもにフィードバックする、の4点に留意してください。なお、この仕組みは規程を整備する際の意見聴取であり、法律上の「児童対象性暴力等を把握する措置」とは別のものです。

3.ポイント② 安全確保措置と懲戒処分を分けて定める

現場で最も混同されやすいのが、疑いの段階で行う「接触回避」と、事実が確定した後の「懲戒処分」です。申告があった直後に必要なのは、制裁ではなく、子どもの安全を守るための業務命令・人事措置です。この2つが曖昧なままだと、賃金の扱いや手続きの適法性をめぐって紛争になるおそれがあります。

  • 安全確保措置:業務命令権・人事権にもとづく措置。申告や疑いの段階から発動でき、自宅待機命令、配置転換、接触禁止などが該当します。賃金は措置の性質に応じて支給基準を確認します。
  • 懲戒処分:企業秩序違反に対する制裁。調査によって行為が認定された後に、懲戒事由の明確化、弁明の機会の付与、処分の相当性の確保を経て行います。

まずは就業規則に「会社は、児童等に対する性暴力等またはこれにつながる不適切な行為の疑いが生じた場合、児童等の安全確保および事実確認のため、懲戒処分とは別に、配置転換、業務内容の変更、自宅待機その他の必要な措置を命ずることがある」といった安全確保措置の規定を置き、段階的に運用できるようにしておきましょう。

4.ポイント③ 懲戒規程を独立させ、前文と附則を整える

懲戒について、就業規則本則から独立した「懲戒規程」として整備する方法もあります。その際、規程の冒頭に「子どもの権利条約の趣旨を踏まえ、子どもの最善の利益を第一に考慮し、子どもが安全で安心して過ごせる環境を確保する」という前文を置くと、規程全体の目的が明確になり、職員の意識改革にもつながります。

また、子どもの権利擁護の観点からは、施行日を待たずに職員への周知と運用を始めることが望まれます。規程の附則に「第〇条の規定は、こども性暴力防止法の施行前であっても、その趣旨に則り適用されるものとする」といった条項を加えることも検討に値します。

補足:認定申請の書類作成について

日本版DBS認定の申請先はこども家庭庁です。報酬を得て官公署に提出する書類を作成することは行政書士の独占業務であり、令和8年1月1日施行の改正行政書士法では、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わりました。指導料や手数料などの名目であっても、行政書士以外の者が報酬を得て申請書類を作成すると違法となるおそれがあります。支援を依頼する際は、誰がどこまで担当するのかを事前に確認しておきましょう。

まとめ

日本版DBSの規程整備は、「認定を取るための書類づくり」ではありません。子どもの権利を理念として組織に根づかせ、子どもと職員の双方にとっての「安全基地」をつくる取り組みです。

当事務所では、社会保険労務士・行政書士・公認心理師の立場から、就業規則や懲戒規程の見直し、子どもの声聴取制度の設計まで一体でサポートしています。施行前の準備にお役立てください。

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