
日本版DBSの認定を目指す事業者から、「行政書士と社労士、どちらに相談すればよいのか」というご質問をよくいただきます。どちらも書類を扱う国家資格ですが、法律で認められた業務の範囲は異なります。依頼先を間違えると、認定申請が遅れたり、知らないうちに法令違反の手続きに関わってしまったりするおそれもあります。
この記事では、日本法令「SR」第82号に寄稿した内容をもとに、日本版DBS対応における行政書士と社労士の役割の違いを整理します。
1.行政書士が担うのは「認定申請」
日本版DBS認定の申請先は、こども家庭庁です。報酬を得て官公署に提出する書類を作成することは、行政書士の独占業務とされています(行政書士法1条の3)。つまり、認定申請書類の作成を報酬を得て代わりに行えるのは、行政書士です。
特に注意したいのが、令和8年1月1日に施行された改正行政書士法です。行政書士でない者による業務の制限を定めた規定(19条)に、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わりました。指導料や手数料などの名目であっても、行政書士以外の者が報酬を得て申請書類を作成すれば、違法となる可能性が高いと考えられます。
また行政書士は、官公署に提出する書類のほか、契約書などの権利義務に関する書類の作成も業務としています。日本版DBS対応では、就業規則だけでなく、次のような契約書類の見直しが必要になる場面もあり、業際(資格ごとの業務範囲)への注意が求められます。
- 外部の委託先が従事者となる場合の業務委託契約書
- 従事者が派遣労働者である場合の、派遣元との労働者派遣基本契約書や個別契約書
- 身元保証人との身元保証に関する契約
2.社労士が担うのは「就業規則と運用」
一方、就業規則の作成・変更や、労働社会保険諸法令にもとづく書類の作成は、社労士の業務です。日本版DBS対応では、次のような支援が中心になります。
- 服務規律(不適切な行為の禁止と例外条件)の整備
- 安全確保措置(自宅待機命令、配置転換など)と懲戒処分の規定の整備
- 研修の内容の設計や、相談・記録の運用ルールづくり
- 性被害(疑いを含む)が生じたときの、労務面での初動対応の助言
社労士の支援は、単なる「認定取得のための規程整備」にとどまりません。子どもの権利を教育・保育の現場における基本理念として位置づけ、それを事業所の制度設計に落とし込み、職員のキャリア発達と両立できる組織風土を育てていくところまでを視野に入れることで、制度が現場で機能するようになります。
3.外部の専門家が「従事者」になる場合
見落とされやすいのが、事業所の職員ではない外部の専門家が、子どもと接する業務を担うケースです。たとえば、公認心理師などの心理職が、業務委託契約にもとづいて子どもの相談に応じる場合があります。
このような場合、就業規則の服務規律はそのままでは適用されません。守ってほしい行動基準や、疑いが生じたときの対応を、業務委託契約書の側に定めておく必要があります。就業規則と契約書の両方を見渡せる体制が、ここでも重要になります。
4.一人の専門家ですべてを担うのは難しい
このように、日本版DBS対応には、許認可の申請、契約書の見直し、就業規則の整備、職員研修など、性質の異なる業務が含まれます。定款の事業目的と実際の事業が合っているか、役員変更などの手続きに漏れがないかといった確認も必要になることがあります。なお、スタッフが10人未満の事業者が就業規則を作る必要があるかどうかは、スタッフが10人未満の場合の就業規則の記事をご覧ください。
そのため、一人の専門家がすべてを担うことは、実務的にも法的にも難しい構造になっています。行政書士と社労士の両方の資格を持つ専門家に依頼するか、それぞれの専門家が連携して対応する体制をとるのが現実的です。
5.スムーズな認定は「受任前の交通整理」から
依頼する側の事業者にとって大切なのは、業務を依頼する前に、誰がどこまでを担当するのかを確認しておくことです。専門家の側も、業務の受任前に顧客の協力を得て「事業における業際リスクの洗い出し」を行い、業務の範囲を十分に説明して理解を得ておくことが、認定申請の遅延を防ぐうえで重要になります。
依頼先を選ぶ際は、次の点を確認するとよいでしょう。
- 認定申請書類の作成は、行政書士が担当するか
- 就業規則や懲戒規程の見直しは、社労士が担当するか
- 契約書の見直しや、その他の手続きが必要な場合の対応先は決まっているか
公認心理師が担う役割
公認心理師は、心理に関する専門的な知見を持つ国家資格者です。子どもの心身の理解や組織の意識向上に向けて以下の支援を行います。
- 子どもの発達段階やコミュニケーション特性を踏まえた研修プログラムの企画・助言
- 不適切な行為の兆候や見守りの視点に関する講義の実施
- 日常的な相談対応や初動対応における心理的配慮への助言
各専門職を活用する場合は、それぞれの資格で定められた法令上の業務範囲内で支援を受けることになります。万が一、個別具体的な法的紛争が生じた場合は弁護士との連携が必要となり、また公認心理師などの心理職が単独で法的判断を行ったり犯罪リスクを断定したりすることはありません。
まとめ
行政書士は「認定申請と契約書類」、社労士は「就業規則と労務の運用」を担います。日本版DBS対応では、この2つがそろって初めて、認定の取得と現場での運用がかみ合います。事前に役割分担を整理しておくことが、顧客の事業を業際トラブルから守ることにもつながります。
日本版DBS認定運用サポートは、行政書士と社会保険労務士の両方の資格を持つ事務所として、認定申請から就業規則の整備、職員研修まで一体でお手伝いしています。行政書士による認定申請の支援内容・料金もご覧ください。
日本法令「SR」第82号に寄稿した日本版DBS対応の記事については、『【寄稿のお知らせ】日本法令「SR」第82号に日本版DBS対応の記事が掲載されました』をご覧ください。
弁護士・行政書士・社会保険労務士の先生方との連携については、「弁護士・行政書士・社会保険労務士の先生へ」をご覧ください。
こども家庭庁のQ&A(応用編10-3-2)では、情報管理規程や児童対象性暴力等対処規程の作成は、行政書士・弁護士でなければ外部から引き受けられないとされています。なお、社会保険労務士の立場として考えると、対処規程は労務に関する書面であり、こども家庭庁の回答には疑義が生じます。ただ、日本版DBS認定運用サポートは法的判断をする立場ではなく、また代表者が行政書士・社会保険労務士の2つの資格者でもあることから、この点については「労務管理実務としては、一般論として行政書士よりも社労士の方が専門性が高い」とだけ述べるにとどめておきます。規程の作成を外部に頼めるのはだれかは、別の記事で解説しています。
行政書士がどの場面で関わるかは、申請前から認定後の届出までの認定と行政書士の関わり方で整理しています。
まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順序を確認できます。
公式資料
- こども家庭庁「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」(施行ガイドライン、Q&A、規程等のひな型、事業者向けチェックリストなどを掲載。2026年9月27日確認)