
児童対象性暴力等対処規程は、認定を受けたい学習塾・スポーツクラブなどの認定対象事業者が、認定の申請で提出する文書です。作るときは、「疑いに気づいた人が、誰に、どの順で伝えるか」を先に決め、そのあとで項目を肉付けすると、現場で使える規程になります。施行日は2026年12月25日です。この記事では、施行ガイドライン(令和8年9月改訂)をもとに、必ず書く事項と、運用でつまずきやすい点を図表で整理します。
学校や保育所、指定障害児通所支援などの義務対象事業者には、この規程自体の作成義務はありません。ただし、疑いが生じたときの「報告ルール」と「対応ルール」を定め、現場で運用できる体制を整える必要があります。
制度の公式情報は、こども家庭庁のこども性暴力防止法 公式ページをご確認ください。
- 対処規程は、認定を受けたい事業者が申請のときに提出する規程です。
- 必ず書く事項は決まっています(定義、体制、防止措置、調査、保護と支援)。
- 懲戒や配置転換の根拠は、就業規則に置きます。対処規程に書いただけでは処分できません。
- こども家庭庁のひな型(令和8年9月2日更新)を、自分の事業に合わせて直して使います。
- 認定後に規程を変えるときは、変更する前に届け出ます(軽微な変更は不要)。
対処規程と報告・対応ルールの役割
規程やルールは、作ること自体が目的ではありません。予防から早期発見、報告、対応、再発防止までを、現場で確実に実行するための行動の基準です。事業者の区分によって、作るものが違います。
| 作るもの | 認定対象事業者(学習塾、スポーツクラブなど) | 義務対象事業者(学校、認可保育所など) |
|---|---|---|
| 児童対象性暴力等対処規程 | 作成し、認定申請のときに提出する | 作成は不要 |
| 報告ルール・対応ルール | 認定申請のときまでに作り、従事者に知らせる | 施行のときまでに作り、従事者に知らせる |
対処規程に必ず書く事項
ガイドラインは、対処規程に必ず書く事項を示しています。これに加えて、事業の実態に応じて必要なことを盛り込みます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 定義 | 「不適切な行為」(性暴力にはあたらないが、続けば性暴力につながり得る行為)の定義 |
| 実施体制 | 性暴力と不適切な行為の範囲を明確にすること、疑いに気づいたときの報告ルール、報告を受けたときの対応ルール、これらを従事者・子ども・保護者に知らせること、対応を行う担当者 |
| 防止措置 | 前科にあたる人は原則として対象業務に就かせない。被害の申出があったときは、子どもと疑われた人の接触を避ける。不適切な行為は、軽微で初回なら指導や研修と経過の観察、重大な場合や繰り返した場合は対象業務に就かせない |
| 調査 | 子どもの人権と特性に配慮する。疑われた人の人権にも配慮し、公正・中立に行う。関係機関と連携する |
| 保護と支援 | 被害を受けた子どもと加害が疑われる人の接触を避ける。支援機関の情報を伝える。子どもと保護者からの相談に誠実に対応する |
| 役割分担 | 共同認定の場合は、委託元と委託先の役割分担 |
気づく従事者や保護者、子どもの相談から疑いを把握する
報告する決めた報告先に、ルールどおり速やかに伝える
安全を守る子どもと疑われた人の接触を避ける
調べる公正・中立に事実を確かめる
対応する防止措置と、子どもの保護・支援を行う
あわせて決めておくとよい項目
必ず書く事項のほかに、次のような内容を決めておくと、現場で使いやすくなります。自分の事業の指導の形や規模に合わせて点検してください。
- 目的および適用範囲(対象となる子ども、従事者、委託先等の範囲)
- 予防のための取組(研修の計画、配置の工夫、子どもとの接触のルール、送迎時の注意点など)
- 相談・通報の受付窓口と連絡の流れ
- 調査を担当する人の利害関係の確認、関係者のプライバシーへの配慮
- 被害を受けた子どもへの支援方針と保護者への対応
- 対応記録の作成・保管の方法と、開示を求められたときの方針
- 規程の管理責任者と見直しの時期
関連するマニュアルとの優先順位や参照先を明らかにし、現場で「誰が、いつ、どのような手順で動くか」が伝わるようにすることが大切です。緊急時にすぐ見られるよう、最初の動きをまとめた簡単な流れ図を別紙として用意しておくと実用的です。
労務管理および個人情報保護との整合性
従事者に対する事実関係の調査や配置の変更、懲戒などの措置は、労働契約法や就業規則、個人情報保護法などの関係法令の枠内で行う必要があります。防止措置が必要だからといって、適正な手続きを欠いた処分や行き過ぎた調査を行うことはできません。
とくに注意したいのは、対処規程に防止措置を書いただけでは、懲戒処分はできないという点です。懲戒の種類と事由は、あらかじめ就業規則に定めて周知しておく必要があります。配置転換についても、就業規則などに根拠を置きます。
調査のときに本人の言い分を聞く機会やプライバシーへの配慮をあらかじめ定めておき、調査の結果や相談の記録を見られる人も必要最小限に限ってください。
委託先やボランティアを含めたルールの共有
事業所内で子どもと接する人には、直接雇用の職員だけでなく、派遣職員、業務委託先のスタッフ、ボランティアなどが含まれる場合があります。契約の内容や事前のオリエンテーションを通じて、禁止される行為の基準や報告窓口を共有し、現場全体で同じ意識を持てるようにしてください。ボランティアを受け入れるときの考え方は、こども性暴力防止法 ボランティアに対しての注意点で整理しています。
事前準備における実務的なチェックポイント
運用を始める前に、現場の手順として次の点が整理されているかを確認することをおすすめします。
- 統括する責任者と、相談に対応する人が決まっている
- 時間外や休日の相談・連絡に対応できる連絡網がある
- 事実の確認と並行して、警察や児童相談所などへ連絡するかを判断する手順がある
- 子どもの心身の安全の確保を最優先に進める手順になっている
- 配置転換や懲戒の根拠が、就業規則と整合している
- 見直しの時期と、研修の実施記録を残す方法が決まっている
- 保護者に取組を説明するための、分かりやすい案内文がある
対処規程の運用でよくある失敗
対処規程は、作っただけでは機能しません。実際に何かが起きたときに動けるかどうかが大切です。つまずきやすい点と対策を挙げます。
| よくある失敗 | 対策 |
|---|---|
| 相談窓口が名前だけになっている | 窓口の場所、連絡方法、受付の時間を、子ども・保護者・従事者に分かりやすく知らせる |
| 調べる人が、関係者になってしまう | 誰が調査を担当するのか、担当できないときは誰が代わるのかを、あらかじめ決めておく |
| 記録の様式がない | 受け付けた日時、内容、対応した人、その後の経過を残す様式を用意する |
| 通報した人が不利益を受けるおそれがある | 相談や通報をした人が不利に扱われないことを規程で明らかにし、現場にも伝える |
| 保護者への連絡の手順が決まっていない | 誰が、いつ、どのように伝えるのかを決めておく |
訓練と見直しで、規程を現場になじませる
年に一度は、想定した場面をもとに、相談を受けてからの流れを確かめる機会を持つと、規程の弱いところが見つかります。見つかった課題は、規程や手順に反映させます。
また、事案の内容によっては、弁護士や児童相談所、警察などの外部の機関と連携する必要があります。連絡先を一覧にして、担当者がすぐ見られるところに置いておきましょう。対処規程は、労務管理や個人情報保護の定めとの整合が求められるため、社会保険労務士など専門家に確認しながら整えると安心です。
小さな事業所でも整えておきたい最低限の備え
人数が少ない事業所では、専任の担当者を置くのが難しいことがあります。その場合でも、相談を受け付ける人、事実を確かめる人、判断する人が同じにならないよう、外部の専門家や関係機関を活用する方法があります。最低限、次の3つは書面で決めておきましょう。
- 相談を受け付ける窓口と、その連絡方法
- 相談を受けてから、責任者に報告するまでの流れ
- 外部の機関に連絡する場合の連絡先と基準
こうした備えは、いざというときに、子どもを守るための行動を早くするための準備になります。規程を作ったあとは、従事者全員に内容を説明し、いつでも見られる場所に置いておくことも忘れないでください。窓口の存在を知らない人がいると、規程は働きません。
実務の見立て:規程の文面より先に「連絡の流れ」を決める
日本版DBS認定運用サポートでは、規程づくりを次の順でお勧めしています。
- 報告の流れを決める。気づいた人から責任者へ、責任者から外部へという連絡の流れを、人の名前ではなく役職で決めます。
- 最初の動きを決める。子どもの安全の確保を最優先にし、子どもへの聞き取りは最小限にとどめるという考え方を明記します。
- 記録と情報の扱いを決める。誰が保管し、誰が見られるかを定めます。
- 就業規則とつなぐ。調査への協力や配置転換、懲戒の根拠は就業規則側に置きます。詳しくは日本版DBSの防止措置を就業規則と整合させる実務ガイド集をご覧ください。
よくある質問
学校や認可保育所も、児童対象性暴力等対処規程を作る必要がありますか。
必要ありません。対処規程は、認定を受けようとする民間の事業者が作るものです。ただし、学校や認可保育所などの義務対象事業者も、疑いに気づいたときの報告ルールと対応ルールは、施行時までに作って従事者に知らせる必要があります。
こども家庭庁のひな型を、そのまま提出してもよいですか。
ひな型は出発点として使えますが、相談の窓口や対応する担当者、不適切な行為の範囲などは、事業者ごとに決めて書き込む必要があります。自分の事業の体制に合わせて直してください。
認定を受けたあとで規程を変えるときは、どうすればよいですか。
変更する前に、変更届を出します。部署名や役職名の形式的な変更など、内容が実質的に変わらない軽微な変更は、届出の必要がありません。なお、名称や所在地など、こども家庭庁が公表している事項を変えるときは、変更する日の2週間前までに届け出ます。
今後の準備の進め方とご相談窓口
認定対象事業者における対処規程の作成や、義務対象事業者における報告・対応ルールの策定は、施行日(令和8年12月25日)に向けた重要な準備項目です。ひな型をそのまま当てはめるだけでなく、自分の施設の間取り、勤務シフト、送迎の実態などに照らして、実際に動ける内容に仕上げてください。事前に机上で対応の手順を確かめ、現場の意見を反映させます。法令・通知の更新、組織の変更、事業所の追加、実際の対応で見つかった課題に応じて規程を見直し、研修や通報の訓練につなげることも大切です。
※本記事の内容は、令和8年10月8日時点で公表されている、こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)およびこども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)に基づいています。
規程類の作成や体制整備に関するご相談は、お問い合わせフォームからどうぞ。
整備しておきたい手順書の種類と作り方は、「日本版DBSのマニュアル整備」で整理しています。
対処規程の作成を外部に頼む場合は、依頼先に注意が必要です。規程の作成を外部に頼めるのはだれかは、別の記事で解説しています。
規程整備から初動対応までを10ページにまとめた無料PDFを、11月5日改訂のQ&Aに合わせて改訂しました。詳しくはお役立ち資料(無料PDF)改訂のお知らせをご覧ください。
まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順序を確認できます。