日本版DBSの保護者対応とカスハラ|管理職が職員を守る方法

日本版DBSの保護者対応とカスハラ|管理職が職員を守る方法

子どもへの性暴力の疑いが生じたとき、保護者は強い不安と怒りを抱えて事業所に連絡してきます。その一方で、電話や面談に出た職員は、きつい言葉を受けて言い返せず、萎縮してしまいます。この間に立つ管理職が、何をどの順番で行うかを決めておかないと、職員の心が折れ、保護者との信頼も壊れてしまいます。この記事では、日本版DBS(こども性暴力防止法)の現場で起こりやすい保護者対応と、2026年10月1日から事業主に求められるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を重ねて整理します。不適切な行為や児童対象性暴力等が疑われたときに、疑いをかけられた従事者と、ほかの職員の両方を守るための、管理職の動き方をまとめます。

日本版DBSの現場で保護者対応が難しくなる3つの場面

保護者対応が難しくなるのは、子どもの安全に関わる連絡が入った直後です。とくに次の3つの場面では、感情が高ぶった保護者と職員が向き合うことになります。

  • 子どもが「いやなことをされた」と話し、保護者が怒りと不安のまま電話をかけてくる
  • 事実の確認が終わっていない段階で、保護者が「今すぐ担当者を辞めさせてほしい」と結論を求める
  • 対応した職員に、長時間の叱責や、同じ内容の連絡の繰り返しが続く

1つ目の場面で大切なのは、保護者の連絡が、子どもを守るための大切な情報だということです。2つ目と3つ目は、事実が確認される前に結論を求められたり、職員への言動が行き過ぎたりする場面で、対応を誤ると職員が追い詰められます。同じ保護者が、1回の連絡の中で、正当な訴えと行き過ぎた言動の両方を見せることもあります。

子どもの安全の訴えと、カスハラは分けて考える

最初に押さえたいのは、保護者の怒りが強いことと、カスハラにあたることは別だという点です。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」は、カスハラを次の3つの要素で整理しています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 言動の内容や、手段・態様が、社会通念上許容される範囲を超えていること
  3. 労働者の就業環境が害されること

判断の軸は、訴えの内容と、伝え方を分けて見ることです。同マニュアルは、商品の不具合に対する交換や返金の求めは妥当な申し入れだとしています。一方で、暴力、威圧的な言動、長時間の拘束などは、手段や態様が許容範囲を超えるとされています。

日本版DBSの現場にあてはめると、「子どもが不適切な行為を受けたかもしれない」という訴えの内容は、事業所が真剣に受け止めるべき申し入れです。ただし、その伝え方が人格を否定する暴言や、何時間も続く叱責であれば、言動は許容範囲を超えるおそれがあります。内容は受け止め、行き過ぎた言動には線を引くという二つを同時に行うことが、管理職の役割です。

なお、保護者が法律上の「顧客等」にあたるかどうかは、事業の形や契約の相手によって見方が分かれる可能性があります。この点は本記事では未確認です。厚生労働省の指針の文言と照らして、個別に確認することをおすすめします。

2026年10月1日から変わったこと

2025年6月に改正された労働施策総合推進法により、カスハラ対策が事業主に求められる仕組みになりました。厚生労働省のウェブサイトによると、事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して講ずべき措置の指針は、令和8年厚生労働省告示第51号として示されています。厚生労働省のウェブマガジンは、施行日を2026年10月1日としています。

マニュアルに示された措置の柱は、次のとおりです。

  • 毅然と対応し、職員を守る方針を明確にして、職員に周知する
  • 相談窓口を設けて、周知する
  • 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた職員に配慮する
  • 悪質な事案への対処方針を、事前に決めて周知する
  • 再発を防ぐ
  • プライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしない

日本版DBSの認定を受ける事業者は、これとは別に、児童対象性暴力等を防ぐための相談体制や、疑いが生じたときの対応手順を整えます。二つの仕組みは、相談窓口や記録の取り方、管理職への報告ルートが重なります。別々に作ると現場が混乱するので、あわせて設計すると運用しやすくなります。

「職員を守る」とは、3つの立場の人を守ること

不適切な行為や児童対象性暴力等の疑いが生じたとき、守る対象は1人ではありません。次の3つの立場を意識して、それぞれに必要な手当てを考えます。

保護者対応の矢面に立つ職員

電話や面談で保護者と直接向き合う職員は、強い言葉を一身に受けます。単独で対応させず、管理職が早い段階で入ることが基本です。厚生労働省のマニュアルも、悪質性が高い事案では、1人で対応せず複数名で対応することを示しています。

疑いをかけられた従事者

疑いが生じた段階では、事実はまだ確認されていません。子どもの安全のために接触を避ける措置は急いで行います。それと並行して、事実が確かめられる前に、本人を悪者として扱わない姿勢が欠かせません。事情確認は、責任を追及する場ではなく、子どもの安全のためにどんな措置が必要かを判断する場です。情報は必要な人にだけ伝え、噂や孤立を防ぎます。

相談した職員と、相談を受けた職員

職員が「おかしいと思う」と声を上げられる職場でなければ、早期の把握はできません。相談したことを理由に不利益な扱いをしないことを、あらかじめ職員に伝えておきます。相談を受けた職員も、聴いた内容を1人で抱え込まないよう、管理職に引き継ぐルートを決めておきます。

管理職の動き方を、時間の流れで整理する

管理職の動きは、連絡を受けた直後、保護者と話す場、限度を超えたとき、終わった後の4つに分けると、準備しやすくなります。

1.連絡を受けた直後:その日のうちに、チームで動く

疑いの段階でも、その日のうちに管理職へ報告し、管理職を含むチームを作ります。子ども側の担当と、職員側の担当に役割を分けると、一方に負担が偏りません。電話に出た職員には、「報告してくれてありがとう」と最初に伝えます。叱責で始まると、次から報告しにくくなります。

2.保護者と話す場:複数人で、記録を残す

面談や電話は、管理職を含む複数名で対応します。場所と時間をあらかじめ決め、日時と発言の内容を、できる限りそのまま記録します。厚生労働省のマニュアルも、録音、録画、対応記録など、第三者が確認できる形で記録を残すことを勧めています。

伝える内容は、次の3つに整理します。

  • 連絡をもらったことへの感謝と、子どもの安全を最優先にする姿勢
  • 今の時点で確認できていることと、確認できていないこと
  • 次に何をするかと、次の連絡の時期

事実が確認される前に、非を認めることも、全面的に否定することも避けます。「わかっていることだけをお伝えします」と区切ることで、約束できないことを約束せずにすみます。

3.限度を超えたとき:線を引き、上位者へ引き継ぐ

大声で威圧する、長時間にわたって職員を引き止める、同じ要求を何度も繰り返すといった言動は、許容範囲を超えるおそれがあります。その場合、管理職は「これ以上のお話は、別の担当からあらためてご連絡します」と、面談の区切りを伝えます。暴行や脅迫など犯罪にあたるおそれがあるときは、迷わず警察に連絡します。損害賠償の請求などが絡む場合は、弁護士への相談も選択肢です。

4.終わった後:職員の心を守る

対応が終わったあと、管理職は対応した職員に、短い時間でよいので声をかけます。体調や眠れているかを尋ね、必要なら休みを取りやすくします。厚生労働省のマニュアルは、産業医や産業カウンセラー、臨床心理士などの専門家に相談して、アフターケアを行うことを示しています。事業所の中だけで抱え込まず、外部の専門家につなぐ道筋も用意しておきます。

事前に決めておく5つのこと

当日の判断を管理職1人に任せると、対応がぶれます。次の5つを文書にして、職員に周知しておきます。

  1. 方針:子どもの安全に関わる訴えは最優先で受け止めること、職員への暴言などは許容しないことを、同時に書く
  2. 相談窓口と報告ルート:日本版DBSの相談窓口と、カスハラの相談窓口の関係を決める
  3. 複数人対応と記録の様式:誰が同席し、何を記録するかを決める
  4. 打ち切りの目安と引き継ぎ先:対応を区切る基準と、引き継ぐ担当者を決める
  5. 職員のケア:声かけの担当、面談の機会、外部の専門家の連絡先を決める

これらは、就業規則の服務規律や、児童対象性暴力等対処規程と矛盾しないように整えます。研修では、実際の場面を想定したロールプレイを行うと、職員が動きをつかみやすくなります。

管理職が陥りやすい3つの落とし穴

よくある失敗は、次の3つです。

1つ目は、現場の職員に任せきりにすることです。保護者の怒りが強いほど、管理職が前に出る必要があります。2つ目は、場を収めるために、職員に非がないのに謝罪を強いることです。職員が「会社は守ってくれない」と感じ、離職や沈黙につながるおそれがあります。3つ目は、「カスハラだ」と決めつけて、訴えの内容そのものを聞かなくなることです。子どもの安全に関わる訴えを聞き逃せば、被害の拡大につながるおそれがあります。言動への線引きと、訴えの受け止めは、必ず分けて行います。

よくある質問

Q.保護者との面談を録音してもよいですか。
A.厚生労働省のマニュアルは、第三者が確認できる記録を残すことを勧めています。録音を行う場合は、あらかじめ事業所としての方針を決め、保護者へどう伝えるかも定めておくとよいでしょう。

Q.保護者の訴えが強すぎるときは、カスハラとして断ってもよいですか。
A.訴えの内容と、伝え方は分けて考えます。子どもの安全に関わる内容は、受け止めて確認を進めます。そのうえで、暴言や長時間の拘束など、手段や態様が許容範囲を超える言動には、線を引いて対応します。

Q.小規模で、管理職にあたる人がいない場合はどうしますか。
A.代表者が管理職の役割を担います。代表者自身が当事者になる場合に備えて、外部の専門家に相談できる窓口を決めておくと安心です。

Q.日本版DBSの認定を受けていなくても、カスハラ対策は必要ですか。
A.カスハラ対策は、労働者を雇う事業主に関わる法律の仕組みで、日本版DBSの認定の有無とは別に整えるものです。ただし、実際の運用は重なる部分が多いため、あわせて設計すると効率的です。

まとめ:保護者の声も、職員の心も守る体制を、先に整える

保護者対応とカスハラの問題は、事が起きてから考えても間に合いません。結論は3つです。

  1. 子どもの安全に関わる訴えは受け止め、行き過ぎた言動には線を引く
  2. 職員を1人で対応させず、管理職が早く入り、記録を残す
  3. 疑いをかけられた従事者も、ほかの職員も、情報管理とケアで守る

感情が高ぶった保護者と萎縮した職員の間で、管理職がどう動くかは、事前に決めておくほど落ち着いて実行できます。まずは、5つの決めごとの1つ目、方針の文書化から始めてみてください。初動対応の考え方は日本版DBSの初動対応、事情確認の進め方は日本版DBSで性暴力の疑いが生じたら、不適切な行為の定め方は不適切な行為の具体例と服務規律もあわせてご覧ください。

日本版DBS認定運用サポートにご相談ください

日本版DBS認定運用サポートの代表は、社会保険労務士・行政書士・公認心理師で、スクールカウンセラーとして学校現場にも携わっています。保護者対応とカスハラの方針づくり、相談窓口と報告ルートの設計、児童対象性暴力等対処規程や服務規律への反映、管理職と職員への研修まで、現場に合わせてご支援します。まずは、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

※本記事は、2026年10月2日時点で、厚生労働省が公表している情報にもとづいています。制度の内容や運用は変更されることがあるため、最新の内容は、厚生労働省とこども家庭庁の公式ページでご確認ください。

保護者に何をどう伝えるかは、「日本版DBSの保護者への周知」で整理しています。

まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。

参考資料

  1. 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」
  2. 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
  3. 厚生労働省Webマガジン「従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール」
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