日本版DBSの初動対応|性被害の疑いが生じたときの3つのポイントとNG質問

日本版DBSの初動対応|性被害の疑いが生じたときの3つのポイントとNG質問

子どもから「先生にいやなことをされた」と打ち明けられたとき、あるいは保護者から疑いの連絡があったとき、事業所はまず何をすべきでしょうか。性被害(疑いを含む)が生じた直後の対応を誤ると、子どもの二次被害や、後の調査で供述の信用性が損なわれるといった深刻な結果を招きかねません。

この記事では、日本法令「SR」第82号に寄稿した内容をもとに、日本版DBSの認定事業者が押さえておきたい初動対応の基本を解説します。

1.初動対応で最も重要な3つのポイント

①「疑い」の段階で、即日チームで対応する
事実が確定するのを待つ必要はありません。「疑い」の段階で、原則としてその日のうちに管理職へ報告し、対応を始めます。必ず管理職を含むチームを編成し、子ども側の担当と職員側の担当など、役割を分けて対応します。

② 事実確認で「禁句」を使わない
子どもへの聴き取りで、「なぜそんなことをしたの」「なぜ逃げなかったの」といった、責めているように聞こえる言葉は禁句です。子どもは萎縮し、事実を話しづらくなります。まずは「誰が」「何を」「どこで」といった客観的な事実の把握に徹し、「あたたかいが淡々と聴き取る態度」が大切です。

③ 安全確保と保護者への迅速な連絡
子どもの安全確保(接触の回避)を最優先し、保護者へ連絡します。また、組織として「全力で守る」「秘密は守る」ことを伝え、医療機関の受診の必要性や、警察への相談意向なども確認します。

2.「傾聴スキル」に頼りすぎない

カウンセラーなどの資格を持つ職員ほど、子どもが被害を打ち明けたときに寄り添おうとして、経緯や状況、気持ちまで深く聴き取ってしまうことがあります。傾聴の「姿勢」はもちろん大切です。しかし、聴き方次第では、周囲の理解不足から子どもを再び傷つけてしまう「再トラウマ」や、大人の問いかけによって記憶の内容が変わってしまう「記憶の汚染」を招き、後の調査で供述の信用性が争われる原因にもなり得ます。

特に、性被害を受けた子どもは、大人の聴き取りの姿勢によって、事実とは異なる反応を示しやすいとされています。「共感」や「気持ちの深掘り」は、子どもにとって負担になるだけでなく、法的なリスクにもつながりかねません。

そのため初動対応では、トラウマの影響を理解し、子どもの心理的な安全性に配慮する「トラウマインフォームドケア」の基本的な知識を踏まえ、こども家庭庁の「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(横断指針)に沿った、慎重な対応を心がける必要があります。

3.事実確認の前に行うのは「業務命令」

性加害の事実が確定していなくても、当該職員と子どもとの接触を断つ対応は必要です。このとき、懲戒処分としてではなく、就業規則の安全確保措置にもとづく業務命令(自宅待機命令、配置転換など)として行うことに注意してください。事実が確認できていない段階で懲戒処分を行えば、後に無効と判断されるリスクがあります。

また、接触を断つときは、子どもを別の教室やクラスに移すのではなく、職員の側を子どもから遠ざけるのが原則です。被害を訴えた子どもが居場所を失えば、「話さなければよかった」という思いを抱かせ、二次被害につながるからです。子どもにとってのいつもの環境を守ることも、安全確保の一部だと考えてください。

4.初動対応の基本フロー

初動対応は、緊急性の判断、安全確保、最小限の聴取、記録、連携に目的を絞り、速やかに専門機関につなぐことが重要です。

  1. 安全確保:当該職員への待機命令などにより、子どもとの接触遮断を直ちに実施する(子どもではなく職員を環境から遠ざける)。
  2. 最小聴取:緊急性の判断(何が・誰が)に必要な概略の把握にとどめ、詳細は掘り下げない(記憶の汚染を防ぐ)。
  3. 逐語記録:子どもの言葉を要約せず、可能な限りそのまま記録する。承諾が得られるなら録音・録画も推奨される。
  4. 外部連携:警察・児童相談所・医療機関等の専門機関への相談を検討し、詳細な聴取を引き継ぐ。
  5. 労務対応:措置の法的な性質(安全確保措置=有給/懲戒=無給)を整理し、整合性を保つ。

5.司法面接に学ぶ「NG質問」と「OK質問」

初動対応を担う職員には、「司法面接」の手法をもとにした聴き方を身につけてもらうことが有効です。「はい・いいえ」で答えさせたり、前提を含んだ質問をしたりせず、子どもが自分の言葉で語れるように聴くのが基本です。

  • NG:誘導質問 「脚を触られたの?」「嫌だったでしょ?」
  • NG:クローズド質問 「本当?」「2人きりだった?」
  • NG:多重質問・責め 「いつどこで何回?」「なぜ逃げなかったの?」
  • OK:オープン質問 「何があったのか、話してくれるかな」
  • OK:中立的な立場の継続 「それからどうなったのかな」
  • OK:沈黙の許容 「話してもいいって思ってからで大丈夫だよ」と伝え、待つ

これらは、事前に研修で練習しておかなければ、とっさの場面では使えません。ロールプレイを取り入れた研修で、職員が自然に使えるようにしておきましょう。子どもが最初に打ち明ける相手は、相談窓口の担当者とは限りません。日ごろ子どもと接するすべての職員を研修の対象にすることが大切です。

まとめ

初動対応の目的は、事実を突き止めることではなく、子どもの安全を守り、専門機関へ適切につなぐことです。「聴きすぎない」「責めない」「すぐにチームで動く」。この3点を、平時の研修とマニュアルで組織に根づかせておくことが、子どもと職員の双方を守ることにつながります。

当事務所では、社会保険労務士・公認心理師の立場から、初動対応マニュアルの作成や、司法面接の考え方を取り入れた職員研修をお手伝いしています。

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