東京都教委の性犯罪歴確認と日本版DBS|民間事業者の備え

東京都教委の性犯罪歴確認と日本版DBS|民間事業者の備え

2026年9月29日、東京都教育委員会は、都内の公立学校で働く常勤の教職員およそ7万人について、性犯罪歴の有無を年内に独自に確認する方針を明らかにしました。12月25日に始まる日本版DBS(こども性暴力防止法)を前に、都が先行して動く形です。報道の内容と日本版DBSとの違いを整理し、学習塾・スポーツ・習い事などの民間事業者が、認定の前に自己申告の仕組みを取り入れる場合のメリットとデメリットを考えます。

報道された内容

報道によると、9月29日の東京都議会第3回定例会で、都議会議員の代表質問に対し、都教育委員会の幹部が方針を示しました。主な内容は次のとおりです。

  • 対象:区市町村立の小中学校(約1,850校)、都立高校(約190校)、都・区立の特別支援学校(約60校)など、約2,100の公立学校の常勤の教職員、約7万人です。
  • 方法:チェックシート方式で、性犯罪歴の有無などを本人が申告します。「事実と異なる回答が判明すれば、処分を受ける可能性がある」と明記し、教職員の署名欄も設けます。
  • 時期:区市町村の教育委員会などへの説明のあと、11月にも確認作業を始め、年内に完了させる予定です。
  • 確認された場合:性犯罪歴などが確認された場合は、子どもと接する業務から外します。
  • 非常勤の教職員:今年度から、採用時に同様の確認をすでに行っています。
  • 背景:都は今年6月、「3年以内ではなく、より迅速に記録の確認を行う仕組みとすべきだ」と国に要望していました。

押さえておきたいのは、今回の確認が、本人の自己申告によるものだという点です。

日本版DBSと都の取り組みは別の仕組みです

日本版DBSは、こども性暴力防止法にもとづいて、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を、雇用主などが確認する制度です。運用は12月25日に始まります。小中高校、特別支援学校、認可保育所、児童養護施設などの事業者は、この制度を利用して確認を行うことが法律で求められています。確認は、こども家庭庁を通じて法務省に照会する形で行われます。性犯罪歴が確認された場合は、子どもと接する業務からの配置転換などを検討することになります。

すでに働いている職員については、国は制度の運用開始から3年以内、つまり2029年12月24日までに確認を終える必要があるとしています。

今回、東京都教育委員会が行うのは、この法律にもとづく公的な確認ではなく、教職員本人の申告による独自の確認です。年内に自己申告を終えても、日本版DBSにもとづく犯罪事実確認を済ませたことにはなりません。

3年の猶予があるのに、なぜ年内に自己申告をするのか

すでに働いている職員の確認には、国の制度上、3年という猶予があります。それでも都が年内に動くのはなぜでしょうか。報道で示されている狙いは、事前に自己申告をさせることで、配置転換などの対応を迅速にすることです。以下は、公表された内容と制度の仕組みから考えた、当事務所の見方です。

1.施行前にできるのは、自己申告だけ

法律にもとづく犯罪事実確認は、運用が始まる12月25日以降の手続きです。施行前に公的な記録を照会する方法はないため、年内に動くなら、本人の申告に頼るほかありません。都が国に「より迅速な仕組みを」と要望したのも、国の制度では前倒しが難しかったためと考えられます。

2.前倒ししているのは、確認よりも「準備」

7万人規模の公的な確認は、順番に進めるしかなく、時間がかかります。先に自己申告で、該当する可能性のある人を把握しておけば、異動先の業務の確保や担当の入れ替えといった現場の準備を、施行前に進められます。結果が出たその日から動けるようにしておくことが、大きな狙いだと考えられます。

3.申告と公的な確認を、二段構えにしている

署名欄を設け、事実と異なる回答があれば処分の可能性があると明記しています。あとで法律にもとづく確認が行われ、申告と食い違えば、それが処分の根拠になりえます。該当する人にとっては、公的な確認の前に、自分から申し出る機会にもなります。自己申告は、公的な確認の代わりではなく、その前段という位置づけです。

4.「猶予」を後回しの理由にしない

3年という期間は、確認を遅らせてよいという意味ではなく、事業者ごとに段取りを組むための期間です。何もしなければ、確認の順番が後になった職員は、確認を受けないまま子どもと接し続けることになります。教職員による性加害が繰り返し報じられるなかで、制度の開始日まで何もしないことは、説明がつきにくくなります。施行前に姿勢を示すことは、保護者や社会への説明にもなります。

まとめると、都が前倒ししたのは、確認そのものではなく、準備と抑止です。この考え方は、民間の事業者にも参考になります。

自己申告のよい点と限界

自己申告には、法務省への照会を待たずに、短期間で全員に確認できるという利点があります。署名欄を設け、虚偽の回答には処分の可能性があると明記すれば、うその回答を防ぐ一定の歯止めにもなります。

一方で、自己申告は、本人が正しく答えることを前提にしています。公的な記録にもとづく確認と同じ確かさがあるわけではありません。そのため、自己申告をしても、日本版DBSにもとづく犯罪事実確認は別に必要です。自己申告を先に、法定の確認を後にという順番で組み合わせて考えます。

また、犯罪歴は、特に慎重な扱いが必要な個人情報です。誰が申告書を見られるのか、どこに保管するのか、何のために使うのかを、あらかじめ決めておくことが欠かせません。

認定を受ける前に、自己申告の仕組みを取り入れるメリットとデメリット

民間の事業者は、認定を受ける前の段階では、法律にもとづく犯罪事実確認を行えません。その間に、都と同じような自己申告の仕組みを取り入れるかどうかは、メリットとデメリットを比べて決める必要があります。

メリット

  • 配置や体制の準備を、早く始められる。子どもと接する業務に就く人の範囲や、異動先の業務を、認定の前に整理できます。
  • 認定申請の予行になる。対象者の洗い出し、規程、情報の管理方法を、実際に運用しながら確かめられます。
  • 従業員に、子どもの安全への姿勢が伝わる。制度が始まる前から説明の場をつくることで、認定後の確認への理解も得やすくなります。
  • 保護者への説明の材料になる。ただし、伝え方には注意が必要です(デメリットの最後の項目を参照)。

デメリットと注意点

  • 確かさに限界がある。自己申告は、本人が正しく答えることが前提です。虚偽があっても、認定後の確認まで分かりません。
  • 個人情報の負担が大きい。認定前に犯罪歴に関する情報を集めると、保管や閲覧の管理を事業者だけで背負うことになります。
  • 従業員の不信や反発を招くおそれがある。目的や扱いの説明が足りないと、「疑われている」と受け止められ、職場の信頼が下がることがあります。
  • 法的な整理が必要になる。申告を求める目的と範囲が必要な限度を超えていないか、協力しない場合や虚偽の場合の扱いを規程で定めているか、労働者の代表への説明を行っているかを確認します。どこまで求められるかは、事業や雇用の形で異なります。
  • 「確認済み」と誤解されるおそれがある。自己申告は、法律にもとづく確認ではありません。「犯罪歴を確認しています」と広く知らせると、保護者に誤解を与えかねません。表現は慎重に選んでください。

目的を子どもの安全確保に限り、範囲と扱いを規程などで定め、認定後の公的な確認の準備として位置づけるなら、取り入れる価値はあります。個別の設計は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。就業規則の見直しは、社労士の業務の解説もご覧ください。

よくある質問

Q.自己申告が終われば、日本版DBSの確認は不要になりますか。
A.不要にはなりません。自己申告は、都が独自に行う確認です。法律にもとづく犯罪事実確認は、別に必要です。

Q.民間の学習塾やスポーツクラブも、同じように確認が必要ですか。
A.学校や認可保育所などは、法律で制度の利用が求められている事業者です。学習塾やスポーツクラブ、習い事などの民間の事業者は、認定を受けるかどうかを事業者が選べる仕組みです。認定を受ける場合は、制度にそった確認や体制づくりが必要になります。

Q.いま、事業者が始めておくとよいことは何ですか。
A.子どもと接する業務に就く人の洗い出し、規程や誓約書の整備、配置転換先の検討、従業員への説明の準備です。施行までの期間が限られているため、優先順位をつけて進めてください。研修については、従事者向けの研修のご案内をご覧ください。

日本版DBS認定運用サポートにご相談ください

日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士、行政書士、公認心理師の立場から、日本版DBSへの対応をご支援しています。規程や誓約書の整備、就業規則の見直し、認定申請の準備、従事者への研修など、事業の内容に合わせてご相談を承ります。まずは、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

※本記事は、2026年9月30日時点の報道と、こども家庭庁が公表している情報にもとづいています。制度の内容や運用は変更されることがあるため、最新の内容は、こども家庭庁の公式ページでご確認ください。

確認できる性犯罪歴と確認できないものを、ケースごとの判定例で整理した記事もあります。日本版DBS:犯罪事実確認で確認できる性犯罪歴とはもあわせてご覧ください。

まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。

参考資料

  1. こども家庭庁「こども性暴力防止法」
  2. KSBニュース「教職員約7万人の性犯罪歴の有無確認へ 国の制度開始に先駆け実施 東京都」(2026年9月29日)
  3. 共同通信「性犯罪歴、東京都教委が7万人を事前確認へ」(2026年9月29日配信)
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