
「理事長が、特定の子とだけSNSでやり取りしているらしい」「新しく迎える役員に、過去の前科があると聞いた」。こうした話は、従業員の場合よりもずっと扱いにくいものです。相手が上の立場だと、だれも注意できず、調べる人もいないからです。結論からお伝えします。こども性暴力防止法は、役員かどうかで扱いを分けていません。こどもと接する業務に就いていれば、役員も確認と対応の対象です。さらに、役員の行いによっては、国の認定そのものが取り消されることがあります。この記事では、こども性暴力防止法で役員に不適切な行為や犯罪事実があった場合に何が起きるのか、何を備えておけばよいのかを、法律と国のガイドラインをもとに整理します。
役員も「こどもと接する業務」に就いていれば対象になる
こども性暴力防止法(日本版DBS)は、2026年12月25日に施行されます。学校や認可保育所などは、法律で取り組みが定められています。学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者は、国の認定を受けるかどうかを自分で選べます。
性犯罪歴の確認(犯罪事実確認)などの対象になるのは、こどもと接する業務に就く人です。法律は、民間の事業について「事業所の管理者」や「こどもに教える人、世話をする人」などを対象に挙げています。肩書きが社長か理事かは、関係ありません。
- 塾長を兼ねる社長、教室に立つ取締役:対象になる
- 練習の指導に入るクラブの代表や理事:対象になる
- 事業所の管理者を務める役員:対象になる
- 経営だけに関わり、こどもと接する業務に就かない役員:犯罪事実確認の対象ではない
小さな事業所ほど、役員が現場に立っています。「役員だから別」と考えず、まず自分たちの役員がどちらに当たるかを書き出してください。
役員に「犯罪事実」があった場合
こどもと接する業務に就いている役員の場合
犯罪事実確認で分かるのは、法律が定める性犯罪(特定性犯罪)の前科です。実刑なら刑を終えてから20年、執行猶予なら判決が確定してから10年、罰金なら納め終えてから10年が、確認の対象です。くわしくは「犯罪事実確認で確認できる性犯罪歴とは」で説明しています。
確認の結果、役員に当てはまる前科があると分かったときの扱いは、従業員の場合と同じです。国のガイドラインは、原則として、その人をこどもと接する業務に就かせないこととしています。社長や代表であっても、教室や指導の場からは離れることになります。
こどもと接しない役員の場合
経営だけに関わる役員は、犯罪事実確認の対象ではありません。事業者が国に確認を申請できるのは、こどもと接する業務に就く人に限られるからです。
では、認定そのものはどうでしょうか。認定を受けられない理由(欠格事由)として法律が挙げているのは、次の3つです。
- 認定を取り消されてから、2年たっていない
- この法律に違反して刑を受け、刑を終えてから5年たっていない
- 法人の役員の中に、1か2に当てはまる人がいる
1には、取り消された法人で、取消しの手続きの通知がある前60日以内に役員だった人も含まれます。
つまり、役員に性犯罪の前科があること自体は、法律の条文では、認定を受けられない理由に挙がっていません。ただし、これは「問題がない」という意味ではありません。その役員をこどもと接する業務に就かせるなら確認の対象になり、前科があれば業務から外すことになります。役員を迎えるときは、こどもと接する場面に出るのかどうかを、先に決めておくことが大切です。
なお、認定の申請では、欠格事由に当たらないことの誓約書と、役員の氏名や略歴を示す書類を出します。新しい役員を迎えるときも、上の3つに当たらないかを本人に確かめてください。
役員が「この法律の刑」を受けると、認定は取り消される
欠格事由の2にある「この法律に違反して刑を受ける」とは、たとえば次のような場合です。
- 犯罪事実確認で知った前科の情報を、自分や他人の不正な利益のために外へ出す(2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金)
- 知った情報の内容を、みだりに他人に知らせる。不当な目的に使う(1年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金)
- うそや不正な方法で、犯罪事実確認書の交付を受ける(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
情報の扱いについての決まりは、対象に「法人の役員」をはっきり書いています。役員は、従業員の前科という重い情報に触れやすい立場です。軽い気持ちで人に話すことも、罰の対象になり得ます。
役員がこの法律の刑を受けると、その法人は欠格事由の3に当てはまります。認定を受けたあとにこうなった場合、国は認定を取り消すことになっています。国の判断で見送る余地のない、必ず取り消される場合です。
役員に「不適切な行為」があった場合
不適切な行為とは、それだけでは性暴力に当たらないものの、業務に必ずしも必要ではなく、続いたり進んだりすると性暴力につながり得る行為のことです。ガイドラインは、次のような例を挙げています。
- こどもと私的な連絡先を交換し、個人的なやり取りをする
- 休日や放課後に、こどもと二人きりで私的に会う
- 私物のスマートフォンで、こどもの写真や動画を撮る
- 用事がないのに別室に呼び出し、二人きりになろうとする
- 特定のこどもにだけ、高価な物を与える
何が不適切かは、事業の内容やこどもの年齢によって変わります。そのため、事業者ごとに範囲を決め、働く人、こども、保護者に知らせておくことが求められています。
不適切な行為があったと判断したときの対応は、段階を踏みます。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 初めてで、比較的軽い | くり返さないよう指導し、研修を受けさせ、その後の様子を注意して見る |
| 指導しても、同じ行為をくり返す | 原則として、こどもと接する業務に就かせない |
| 重大な不適切な行為(しつこく行う、こどもや保護者の意に反すると分かって行う、など) | 原則として、こどもと接する業務に就かせない |
この扱いは、こどもと接する業務に就いている人であれば、役員でも変わりません。認定を受ける事業者は、こうした対応を「児童対象性暴力等対処規程」という社内の決まりに書き、国に出します。そして認定後は、その規程を守る義務があります。「代表だから口頭の注意だけで済ませた」「理事の件は見なかったことにした」という扱いは、規程を守っていないことになります。
対応しなかった場合、認定はどうなるか
役員に不適切な行為があっただけで、すぐに認定が取り消されるわけではありません。問われるのは、事業者が決めたとおりに動いたかどうかです。
- 対処規程を守らない:国が認定を取り消すことができる場合に当たる
- 認定の基準を満たさなくなった:国は期限を決めて改善を命じることができる。命令に従わないと、認定は取り消される
- 国が求める報告をしない、うその報告をする:国が認定を取り消すことができる場合に当たる。50万円以下の罰金もある
国の監督の指針では、「取り消すことができる」場合は、原則として先に指導が行われます。そのうえで、重大さや悪質さ、くり返しの有無などを見て判断するとされています。
認定が取り消されると、その事実はインターネットで公表されます。さらに2年間は、認定を受け直せません。取消しの直前に役員だった人が別の法人の役員になっていれば、その法人も2年間は認定を受けられません。取消しの全体像は「認定取消しのリスクと対策」にまとめています。
役員が相手だと、なぜ難しいのか
従業員であれば、上司が注意し、就業規則に沿って配置を変えたり処分したりできます。役員の場合は、次の3つでつまずきます。
1. 調べる人がいない
対処規程では、疑いがあるときに事実を調べることになっています。調査は、こどもの人権に配慮し、疑われた人に対しても公正かつ中立に行うことが求められています。ところが、調べる担当者が疑われている役員の部下であれば、公正な調査は望めません。疑われている本人を、調査と判断の場から外すことが出発点です。小さな事業所では、外部の専門家に調査を手伝ってもらう方法を、あらかじめ決めておくことをおすすめします。
2. 就業規則がそのまま使えない
役員は、雇われて働く従業員とは立場が違います。そのため、就業規則にある懲戒や配置転換の決まりが、そのまま当てはまらないことがあります。業務から外す、役職を解く、解任するといった手続きは、定款や役員の規程、法人の種類ごとの決まりに沿って進めます。たとえば株式会社では、取締役の解任は株主総会で決めます。従業員の場合の進め方は「日本版DBS 解雇の注意点」をご覧ください。
3. こどもや職員が言い出しにくい
相手が代表や理事だと、こどもも保護者も職員も、事業所の中の窓口には相談しにくくなります。認定の基準では、事業所の中の相談先に加えて、外部の相談窓口を知らせておくことが求められています。「事業所の人に言いにくいときは、ここに相談できます」と、ふだんから伝えておいてください。だれが相談したのかを周りに知られないようにすることも、欠かせません。
今のうちに決めておきたい5つのこと
- 役員ごとに、こどもと接する業務に就くかどうかを書き出す
- 就く役員は、従業員と同じ手順で犯罪事実確認を受けると決め、本人に伝える
- 不適切な行為の範囲と対応は「役員も同じ」と、規程に書いておく
- 役員が疑われたときに、だれが調べ、だれが判断するかを決める(本人は加わらない)
- 役員を業務から外す、解任するときの手続きを、定款や役員の規程で確かめる
こども家庭庁は、中小規模の民間事業者が、性暴力の疑いが生じたときの対応などを弁護士に相談できる窓口を用意するとしています(2026年10月6日時点では準備中)。
よくある質問
役員に性犯罪の前科があると、認定は受けられませんか?
役員に性犯罪の前科があること自体は、法律の条文では、認定を受けられない理由に挙がっていません。ただし、その役員がこどもと接する業務に就くなら犯罪事実確認の対象になり、前科があれば、原則としてその業務には就かせられません。
不適切な行為をしたのが代表者で、だれも注意できません。
事業所の中だけで抱えず、外部の相談窓口や専門家に相談してください。対応しないままにすると、対処規程を守っていないことになり、認定の取消しにつながるおそれがあります。こうした場面に備えて、本人を外して調べる手順を、先に決めておくことが大切です。
代表者が交代するときは、手続きが必要ですか?
必要です。法人の代表者の氏名は、国が公表する事項です。変更するときは、あらかじめ国に届け出ます。
学校や認可保育所の場合も同じですか?
学校や認可保育所などは、認定を受ける仕組みではないため、認定の欠格事由や取消しはありません。ただし、こどもと接する業務に就く人の犯罪事実確認や、不適切な行為への対応は、法律で定められています。校長、園長、施設長も対象です。
規程の整備や、役員を含めた研修についてのご相談は、日本版DBS認定運用サポートまでお寄せください。
まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。
公式資料
- こども家庭庁「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」(2026年10月6日確認)
- 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法律第69号)第2条、第20条、第24条、第25条、第30条、第32条、第39条、第43条から第46条
- こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(令和8年9月改訂)
- こども家庭庁「こども性暴力防止法における認定事業者等に係る監督等の指針」(令和8年10月1日)