「記憶の汚染」とは?日本版DBSの被害聴取で避けたい質問と記録の取り方

「記憶の汚染」とは?日本版DBSの被害聴取で避けたい質問と記録の取り方

子どもから「先生にいやなことをされた」と打ち明けられたとき、心配のあまり「どこを触られたの?」「いつのこと?」と聞きたくなるのは自然なことです。ところが、その質問が子どもの記憶そのものを変えてしまうことがあります。これが「記憶の汚染」です。日本版DBS(こども性暴力防止法)の施行ガイドラインも、被害を打ち明けられた事業者が気をつける点として、はっきり挙げています。この記事では、記憶の汚染とは何か、被害聴取で避けたい質問、そして話を聴いたあとの記録の取り方を、こども家庭庁の資料にもとづいて整理します。

記憶の汚染とは何か

ガイドラインでは、記憶の汚染を次のように説明しています。性暴力の被害を受けた子どもに、何度も話を聴いたり、誘導的な質問をしたりすることで、周りからの質問やあとから得た情報を、自分の考えや経験だと思い込んでしまう。体験していない被害を、体験したと思い込んでしまう。その結果、記憶が変わってしまうことです。

記憶の力が育っている途中の幼い子どもに起きやすいとされています。ただし、年齢の高い子どもでも、被害の内容や支援の状況によって、記憶があいまいになったり、変わったりすることがあると書かれています。「中学生や高校生なら大丈夫」とは言えません。

なぜ事業者にとって大きな問題なのか

理由は2つあります。1つ目は、子どもの負担です。何度も被害を思い出させられると、トラウマ体験の影響を深めてしまうおそれがあります。これを二次被害といいます。

2つ目は、その後の手続きへの影響です。記憶の汚染が起きると、裁判などの司法手続で、子どもの話が信用できる証拠として認められなくなる可能性があります。そうなれば、加害者を適切に処罰できないかもしれません。こども家庭庁の研修資料は、誘導的な聴き取りが、先生や管理職のような社会的な地位のある大人から行われたときに、とくに起きやすいと説明しています。打ち明けられた側が先生や管理職の立場にあるときほど、言葉の選び方に注意が必要です。

記憶を汚染しやすい4つの聴き方

研修資料は、誘導につながる言動として次の4つを挙げています。

  • 大人のほうから問題を持ち込む(子どもが話していないのに名前や行為を出す)
  • 「はい」か「いいえ」で答える質問を重ねる
  • 同じ質問を繰り返す
  • 子どもの言葉を大人の言葉に言い換える

資料には、保護者と子どものやり取りの例が載っています。「クラスのA先生に触られたことある?」と聞いても子どもは黙っています。心配になった保護者が「ちゃんと話して。A先生、触るの?」と重ねると、子どもは「あたった、かな」と答えます。すると保護者は「やっぱり触ったのね」と受け取ってしまいます。子どもが言ったのは「あたった」なのに、「触った」に置き換わっています。ここでは「A先生」も「触る」も、大人のほうから出した言葉です。

避けたい問いかけと、言い換えの例

ガイドラインの解説資料は、避けたい問いかけを具体的に示しています。

  • 子どもが話していないのに「〇〇先生がやったの?」「〇〇を触られていない?」と尋ねる
  • 子どもが「触られた」と言っていないのに「どこを触られたの?」「いつ触られたの?」と尋ねる
  • 子どもが「当たった」と言ったのを「触られたんだね」と言い換える
  • 「気持ち悪いことをされた」と言ったとき、「怖いことをされたんだね」と、子どもが使っていない言葉でコメントする
  • 「〇〇さんから、こう聞いたよ」と、ほかの人から得た情報を伝える

代わりに使いたいのは、相づちと、子どもの言葉をそのまま使った問いかけです。「うんうん」「それで?」「そのことを話して」。不明確な点を確かめるときも、「〇〇されたと言ったけど、した人のことを教えて」のように、子どもが話した内容の範囲にとどめます。「なぜ?」は責められていると感じさせることがあるため、「どういうことがあって、そうなったの?」と聞き方を変えます。

打ち明けられたときの3ステップ

研修資料は、事業者が最初の聴き取りで行う流れを、導入、自発的な語り、終結の3つに整理しています。

  1. 導入:答えたくない質問には答えなくてよいこと、わからないときは「わからない」と言ってよいことを伝えます。被害とは関係のない、好きなことの話から始めて、話しやすい関係をつくります。
  2. 自発的な語り:「何がありましたか?」と誘いかけ、「誰がしてきた?」「そのことを全部話して」「それで?」とオープンに聴きます。
  3. 終結:話してくれたことに感謝し、子どもが自分を責めているときは「あなたは悪くない」と伝えます。安全が一番大切で、守る方法を考えたいこと、そのために他の人と情報を共有したいことも伝え、いつでも相談できると告げて終わります。

聴くのは「何があったか」「誰がしたか」までで十分です。それ以上の詳しい聴き取りは、誘導の危険と子どもの負担が高まります。十分な訓練を受けた人が、基本的には警察などによる協同面接や代表者聴取として行うものとされています。

聴き取りで守りたい姿勢

  • 疑う態度をとらない(「本当にそんなことあったの?」「あの人がするはずはない」と言わない)
  • 怒りや動揺を見せない(見せると、子どもはそれ以上話せなくなります)
  • 子どものペースを大切にし、沈黙にも耐えて待つ
  • 話す以上のことを無理に聴き出さない
  • 同じことを何度も聴かない
  • 新しい疑いが語られたときは、「まず〇〇について聴かせてください」と区切って、一つずつ聴く

聴き取り中に見られる子どもの反応

被害を受けた子どもには、聴き取りの場でもトラウマ反応が出ることがあります。かゆがる、あくびをする、目をそらす、足をぶらぶらさせるといった体の反応や、被害を思い出すことを避けようとする「回避」などです。反応が出たときは、子どもや保護者に「そうした反応が出るのは当たり前のことです」と伝え、医師や心理職など専門家への早めの相談をすすめます。聴き取りを続けるかどうかは、子どもの様子を見て判断します。迷うときは一人で決めず、周りに相談してください。

記録の取り方

記憶の汚染を防ぐには、聴き方だけでなく記録も大切です。経緯、日時、場所、聴き取り担当者と記録者、聴き取った内容を残します。内容は、担当者の質問と子どもの発言を、使われた言葉のまま逐語的に書きます。あとから、誘導的な質問がなかったことを示す手がかりになるからです。記録が不十分だと、証拠としての信用性が下がるおそれもあります。

録音や録画は、子どもの負担感を確かめ、本人の同意を得たうえで行うと有効です。嫌がったり話しにくそうにしたりするときは、無理をせず、録音・録画なしで進めます。

犯罪の疑いがあるときは、聴き取りを最低限にして警察へ

ガイドラインは、犯罪であることが明らかな場合や、その疑いがある場合には、二次被害や記憶の汚染を防ぐため、子どもへの聴き取りを最低限にとどめ、速やかに警察に通報または相談するよう求めています。通報するか迷うときも、迷っている状況を含めて警察に相談することを、まず検討するとされています。事業者が司法面接を行うわけではなく、事業者の役目は、初期の聴き取りをていねいに行い、必要最小限で関係機関につなぐことです。

あわせて、加害が疑われた人の人権にも配慮し、この段階ではまだ事実と評価されたわけではないため、公正・中立な態度で対応するとされています。

事業者が平時にできる備え

打ち明けられる場面は突然訪れます。次の3点は、事前に決めておけます。

  • 研修に入れる:ガイドラインは、対象業務従事者の研修事項に、被害の相談を受けたときの心構え(二次被害・記憶の汚染の防止など)を含めています。研修の組み立ては標準研修の受講対象者の記事が参考になります。
  • 記録様式を用意する:日時、場所、担当者、子どもの言葉をそのまま書ける様式を、あらかじめ作っておきます。
  • 連絡先を決める:警察や所管行政庁など、相談先の連絡先を一覧にしておきます。

疑いが生じたあとの流れは、日本版DBSの初動対応と性暴力の疑いが生じたときの事情確認の記事で整理しています。

日本版DBS認定運用サポートでは、被害を打ち明けられたときの対応手順や研修資料の整備をお手伝いしています。まずはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

※本記事は、2026年10月2日時点で、こども家庭庁が公表している情報にもとづいています。制度の内容や運用は変更されることがあるため、最新の内容は、こども家庭庁の公式ページでご確認ください。

被害を受けた子どもの保護・支援の考え方は、「日本版DBSの被害児童の保護・支援」で整理しています。

まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。

参考資料

  1. こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)」
  2. こども家庭庁「こども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)」
  3. こども家庭庁「こどもへの聴き取りに関する留意点<知識編>」
  4. こども家庭庁「こども性暴力防止法の解説資料(事業者向け)」
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