
日本版DBS(こども性暴力防止法)というと、働く人の犯罪歴を確認する制度というイメージが先に立ちます。けれども、こどもを守る力は、大人を確かめることだけでは生まれません。こども自身が「いやだ」「困っている」と言えて、その声が受けとめられる場があってはじめて、被害は早く見つかります。そこで注目したいのが、「意見表明権」と「アドボカシー」です。この記事では、その意味と法律上の位置づけを整理し、民間の教室やクラブで無理なく取り入れる方法をお伝えします。
こどもの意見表明権とは
意見表明権は、自分に関わることについて、こどもが自由に意見を言える権利です。子どもの権利条約の第12条に定められており、日本は1994年にこの条約を批准しました。2023年4月に施行されたこども基本法も、基本理念として、こどもの年齢や発達の程度に応じて意見を表明する機会が確保されること、その意見が尊重され、こどもの最善の利益が優先して考慮されることを掲げています。
ここで大切なのは、「言う権利」は、聴く大人がいて初めて意味をもつということです。言える場がなければ、権利は書かれているだけになってしまいます。性被害は、こども本人が恥ずかしさや怖さから言い出しにくく、周りの大人も気づきにくいものです。だからこそ、日ごろから「話してよい」と伝わる環境が、早く気づくことにつながります。
アドボカシーとは
アドボカシーは、「権利擁護」や「代弁」と訳されます。こどものアドボカシーとは、こどもの立場に立って、こどもの声を聴き、こどもが望むときにはその思いを周囲の大人に伝える支援です。大人が「こどものためだ」と判断して決めてしまうのではなく、こども自身の思いを出発点にする点が特徴です。
こども家庭庁の資料では、意見表明等支援員の役割として、こどもが意見をまとめることへの支援、意見や意向を関係機関に伝える支援、伝えたあとに説明への納得度を確認して必要なら再び支援することが挙げられています。悩みの解決策を示す「相談対応」とは違い、こどもの思いを形にして届けることが中心です。
法律のなかでの位置づけ
まず、児童福祉法です。2024年4月から、児童相談所などが一時保護や施設入所などを決めるとき、こどもの意見や意向を聴く「意見聴取等」を行うことが求められています。あわせて、都道府県が「意見表明等支援事業」として、意見表明等支援員がこどもを支える仕組みを整えています。ただし、これは児童相談所などの対象となるこどもに向けた仕組みで、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者に同じ義務があるわけではありません。
次に、こども性暴力防止法です。この法律は、アドボカシーそのものを求める規定ではありません。一方で、事業者が取り組む安全確保措置として、次の内容が示されています。
- 早期把握:日常の観察に加え、発達段階や特性に応じた定期的な面談やアンケートを行います。
- 相談体制の整備:相談員の選任や窓口の設置と周知を行い、外部の相談窓口も周知します。
- 調査:疑われるこどもの人権や特性に配慮し、過度な負担にならないよう進めます。
- 被害児童等の保護・支援:被害を受けたこどもの希望を踏まえ、中長期的に見守ります。
- 研修:相談や報告を受けたときの対応などを学びます。
こども家庭庁の審議会資料では、相談内容を性暴力に限定しないこと、複数の窓口をわかりやすく周知することが有効とされています。こどもの声を受けとめるという点で、アドボカシーの考え方と重なります。なお、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者は、認定を受けるかどうかを自分で選べる仕組みです。認定を受ける場合に、これらの措置が必要になります。
事業所で取り入れる4つのポイント
1.話せる相手を複数つくる
指導者本人に、その指導者のことは相談しにくいものです。担当の指導者のほか、別の職員や責任者、外部の窓口など、こどもが選べる相手を複数用意してください。相談できる内容は、性被害に限らず「困りごと全般」にすると、こどもは声をかけやすくなります。
2.こどもの言葉で伝える
窓口の案内は、年齢に合わせた言葉やイラストで、教室やクラブの見える場所に掲示します。「困ったら話していい」「話しても怒られない」と書いてあるだけで、こどもの受けとめ方は変わります。
3.聴き方の基本を決める
話を遮らない、責めない、「どうして」と問い詰めない、答えを誘導しないという4点を職員全員で共有します。また、「誰にも言わない」と約束するのは避けてください。守れない場合があるからです。「あなたを守るために、信頼できる大人に相談することがあります」と正直に伝えるほうが、信頼につながります。
4.聴いたあとの流れを決める
聴く、記録する、責任者に報告する、対応する、こどもに結果を伝えるという流れを、あらかじめ規程や手順書に定めておきます。聴いたのに何も変わらない経験は、こどもの口を閉ざしてしまいます。性被害が疑われる場合は、職員が自分で事実を確かめようとせず、定めた手順にそって責任者へ報告してください。こどもに同じ話を何度もさせない配慮も必要です。規程の考え方は、「子どもの権利」を土台にする規程整備もご覧ください。
よくある質問
Q.アドボカシーの担当者を置かないと、認定を受けられませんか。
A.こども性暴力防止法が、アドボカシーの担当者の配置そのものを求めているわけではありません。求められるのは、早期把握や相談体制の整備などの安全確保措置です。具体的な内容は、こども家庭庁の施行ガイドラインでご確認ください。
Q.幼い子や、話すのが苦手な子の声は、どう聴けばよいですか。
A.こども家庭庁の審議会資料でも、未就学児や意思疎通に課題のある障害児については、観察が重要とされています。表情や行動、いつもとの違いに気づくことが、声を聴く第一歩です。
Q.まず何から始めればよいですか。
A.窓口の案内を、こどもにわかる言葉で掲示することと、聴いたあとの報告の流れを決めることです。意見表明そのものの考え方は、こどもの最善の利益と意見表明、職員への周知は、従事者向けの研修のご案内をご覧ください。
日本版DBS認定運用サポートにご相談ください
日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士、行政書士、公認心理師の立場から、日本版DBSへの対応をご支援しています。相談窓口の設計、規程や手順書の整備、認定申請の準備、従事者への研修など、事業の内容に合わせてご相談を承ります。まずは、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
※本記事は、2026年10月1日時点で、こども家庭庁が公表している情報にもとづいています。制度の内容や運用は変更されることがあるため、最新の内容は、こども家庭庁の公式ページでご確認ください。
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