
「日本版DBSの研修を全員に受けさせたいけれど、シフトが埋まっていて時間がとれない」。学習塾や保育、放課後児童クラブなどの現場では、こうした声をよく聞きます。研修は、こども性暴力防止法にもとづいて事業者が従事者に受講させなければならないものなので、時間がないことを理由に省略することはできません。一方で、こども家庭庁の資料には、限られた時間で研修を進めるための工夫がいくつも示されています。この記事では、「研修の手引き」とQ&Aをもとに、時間がない事業者が使える方法を整理します。
前提:省略できないこと
工夫を考える前に、動かせない前提を確認しておきます。
- 対象従事者全員に受講させる:勤務期間が短い職員や短時間勤務の職員も、対象従事者であれば受講が必要です。
- 業務に従事する前に終える:原則として、こどもに接する業務に従事する前に受講させます。義務対象事業者の現職者は、原則として施行日(2026年12月25日)の前に受講させます。
- 座学と演習を組み合わせる:動画を見るだけでなく、演習も必要です。
- 受講時間は労働時間:研修は事業者が必ず受講させなければならないものなので、その受講時間は労働時間に含まれます。
特に最後の点は見落とされがちです。「自宅で空いた時間に動画を見ておいて」と指示する場合も、その時間は労働時間として扱う必要があります。
工夫1:座学と演習を別の日に分ける
座学と演習は、必ずしも同じ日に行う必要はありません。どちらも業務に従事する前に終わっていればよいとされています。まとまった時間がとれない場合は、まず座学を個人で進め、演習は職員が集まれる日にまとめて行う、という分け方ができます。
工夫2:標準動画を小項目ごとに視聴する
こども家庭庁の標準動画は、小項目ごとに分けて提供されています。「法の概要」「性暴力の防止に関する基礎」「早期発見のための取組」「犯罪事実確認」「防止措置」「情報管理措置」などのまとまりごとに、数日に分けて視聴する計画を立てることができます。研修管理システムで配信したい場合は、こども家庭庁に申請すると、動画のmp4ファイルの提供を受けることもできます。
工夫3:要点研修を使える人を見極める
こども家庭庁は、最低限必要な内容をまとめた要点動画(約17分)も公表しています。要点研修を受講できるのは、不定期・短期間で従事する人など、標準研修の受講が直ちに難しい人です。期間の定めのない労働者など、中長期で従事する人は、標準研修が原則です。
そのため、「全員を要点研修で済ませる」のではなく、短期のアルバイトや単発に近いボランティアには要点研修、常勤の職員には標準研修、というように、人ごとに使い分けることが大切です。要点研修で先に業務に入ってもらった人も、従事が長くなる見込みであれば、あとから標準研修を受講させると安心です。ボランティアを受け入れるときの考え方は、こども性暴力防止法 ボランティアに対しての注意点で整理しています。
工夫4:既存の研修と重なる部分を省略する
教員性暴力等防止法にもとづく研修や、保育士向けの指針にもとづく研修をすでに受けている場合は、重複する内容を省略できます。ただし、少なくとも次の4つは、標準動画などで追加して受講させる必要があります。
- 法の概要
- 犯罪事実確認において従事者に求められる内容
- 防止措置の基礎的事項
- 厳格な情報管理の必要性
既存の研修の内容を一覧にして、足りない項目だけを標準動画で補えば、同じ内容を二度学ぶ時間を減らせます。
工夫5:外部研修やオンラインを活用する
研修の実施主体は問われていないため、業界団体や地域の協議会が行う研修を受講させることもできます。複数の業界団体による合同開催や、虐待対応など別の研修と組み合わせて開催することも、手引きで例として挙げられています。演習は対面が望ましいとされていますが、オンラインでも実施できます。オンラインで演習を行う場合は、3〜5人程度の少人数グループに分かれ、進行・記録・時間管理の役割を決めておくと、短い時間でも一人ひとりが発言できます。
演習を短い時間で行うコツ
時間がないときに削られやすいのが演習です。しかし、演習は法定の研修に欠かせない要素です。Q&Aでは、演習に必ず含める内容として、次の2つが示されています。
- 「不適切な行為」の具体的な内容を理解させるもの
- 性暴力や「不適切な行為」の疑いが生じたときに取るべき行動(こどもや保護者、ほかの従事者から相談を受けたとき)をシミュレートするもの
演習は個人単位で行うこともできますが、可能な限り集団で行い、対話を通じて気づきを深めることが重要とされています。こども家庭庁の研修教材には演習資料も含まれているので、事例を一から作らずに、配布された資料を使えば準備の時間を減らせます。自社の「不適切な行為」の一覧を事前に配っておけば、当日の議論もすぐに始められます。
工夫6:2回目以降は日常業務に組み込む
研修は、定期的に受講させたり、日常的な取組の中に組み込んだりすることが望ましいとされています。手引きでは、全員が集まる時間がとれない場合に、30分以内の隙間時間を活用する方法が示されています。たとえば、朝のミーティングで死角になりやすい場所や、「不適切な行為」かどうか判断に迷う事例を話し合うといった形です。ポイントは、新しく時間を作らず、すでにある会議の中で研修を行うことです。
受講計画は逆算で立てる
施行日まで3か月を切ると、現職者全員の受講を短期間で終える必要が出てきます。対象者の人数、標準研修と要点研修の区分、演習をまとめて行う日を先に決め、施行日から逆算して計画を立てておきましょう。こども家庭庁が公表している「年間研修計画」や「研修受講管理表」の様式例も活用できます。準備全体の流れは「日本版DBS施行まであと3か月|12月25日までに終えておきたい準備チェックリスト」で整理しています。
研修の受講対象者の範囲は「日本版DBSの標準研修は誰が受ける?」、受講後の効果測定と記録は「日本版DBS研修の効果測定」で解説しています。
まとめ
研修の受講そのものは省略できませんが、座学と演習の分割、小項目ごとの視聴、要点研修の適切な使い分け、既存研修との重複の省略、外部研修やオンラインの活用によって、現場の負担は小さくできます。受講時間が労働時間になることも踏まえて、無理のない計画を早めに立てておきましょう。
日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士・行政書士・公認心理師の立場から、受講計画の作成から、短時間でも効果が出る演習の設計・実施までをご支援しています。
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※本記事は、2026年9月28日時点で公表されているこども家庭庁の資料にもとづいています。最新の内容は、こども家庭庁の公式ページで必ずご確認ください。
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