こども性暴力防止法 被害の申出があったときの自宅待機|賃金の扱いと進め方

こども性暴力防止法 被害の申出があったときの自宅待機|賃金の扱いと進め方

「保護者から、子どもが指導者に嫌な触られ方をしたと話している、と電話がありました。本人を休ませたいのですが、給料はどうなるのでしょうか」。こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行が近づき、こうした場面の相談が増えています。結論からお伝えすると、申出があった時点で、こどもとその従事者の接触を断つ必要があります。自宅待機を命じた場合、その間の賃金は原則として支払う必要があります。この記事では、自宅待機を中心に、申出を受けた直後の進め方を整理します。

申出があった時点で「接触を避ける措置」が必要になる

こども性暴力防止法は、従事者による性暴力が行われる「おそれ」があると認めるときに、こどもと接する業務に就かせないなどの措置(防止措置)を求めています。国のQ&Aは、在籍するこどもやその保護者から、特定の従事者による被害の申出があった場合を、「おそれ」があると認めるケースの一つに挙げています。

このとき求められるのは、被害が疑われるこどもと、加害が疑われる従事者の接触を避けることです。国のQ&Aは、その従事者を一時的にこどもと接する業務から外し、自宅待機させたり別の業務に就かせたりする措置を示しています。

一方で、この段階はまだ事実を確かめる前です。国のQ&Aは、事実確認が終わっていないのに、加害があったことを前提とした懲戒処分や、確定的な配置転換など、労働者の地位を変える対応はあってはならないと強調しています。

接触を断つ方法の比べ方

方法 向いている場面 注意点
自宅待機を命じる 職場にいるだけで接触の可能性がある、証拠や関係者への影響を避けたい 原則として賃金の支払いが必要
こどもと接しない別の業務に就かせる 事務など、こどもと関わらない仕事が社内にある 周囲に理由を詮索されやすい。情報の共有範囲に注意
担当や勤務場所を一時的に変える 複数の教室があり、被害が疑われるこどもと会わない配置ができる あくまで一時的な措置として、期間を区切る

どの方法でも、「調査が終わるまでの一時的な措置」であることを本人にはっきり伝えることが大切です。

自宅待機中の賃金は「原則支払う」

こども家庭庁の解説資料は、自宅待機命令は、業務上の必要がない場合や不当な目的がある場合でない限り、業務命令として命じることができるとしています。そのうえで、懲戒の対象になる行為があったと疑う理由があり、調べるために必要な場合であっても、原則として自宅待機期間中の賃金を支払う必要があるとしています(民法536条2項)。

よく誤解されるのが、休業手当との関係です。

  • 休業手当(労働基準法26条):会社側の事情で休ませたときに、最低でも平均賃金の6割を支払うルール
  • 賃金全額(民法536条2項):会社の判断で働かせなかった場合は、原則として賃金全額を支払う必要がある

解説資料は、個別の事情によっては例外的に支払いを免れる場合もあるとしつつ、その例として、不正行為の再発や証拠隠しのおそれなど、緊急かつ合理的な理由が必要だと述べた裁判例を挙げています。実務では、全額を支払う前提で準備しておくのが安全です。

また、自宅待機は業務命令であり、懲戒処分としての「出勤停止」とは別のものです。調査の結果を待たずに出勤停止の処分をすることは、先に述べたとおり認められません。

シフト制・有期契約のアルバイトの場合

学習塾やスポーツ教室では、シフト制で働く大学生などのアルバイトも多いと思います。厚生労働省の「シフト制」労働者に関する資料は、会社側の事情で休ませた場合は休業手当の支払いが必要であり、会社自身の故意や過失による場合は賃金全額の支払いが必要になるとしています。すでに確定したシフトから外す場合も、自宅待機と同じように賃金の扱いを決めておきましょう。

有期契約の人を、申出があったことだけを理由に契約期間の途中で解雇したり、次の契約を更新しないと決めたりするのは避けてください。期間途中の解雇には「やむを得ない事由」が必要で、通常の解雇よりも厳しく判断されます。対応の詳細は「日本版DBSの配置転換と期間雇用」で解説しています。

自宅待機を伝えるときのポイント

本人には、できるだけ書面で次の点を伝えます。

  1. 調査のため、一時的に自宅待機を命じること(処分ではないこと)
  2. 待機の期間の目安と、期間が延びる場合は改めて連絡すること
  3. 待機中の賃金の扱い
  4. 事業者との連絡方法(電話に出られる時間帯など)
  5. 調査が終わるまで、こどもや保護者に直接連絡しないこと

あわせて、待機の理由を知る人はできるだけ少なくします。国のQ&Aは、調査の結果、加害がなかったと分かった従事者が職場に戻るときに偏見が生じないよう、自宅待機の理由などは調査の時点から必要最小限の人だけで共有するよう求めています。ほかの職員には「しばらく休んでいる」とだけ伝えるなど、言い方も決めておきましょう。

待機している本人にとっても、先の見えない時間は大きな負担です。連絡の窓口を一人に決め、調査の進み具合を定期的に伝えるようにすると、本人が不安から同僚や保護者に連絡を取ってしまうことを防げます。疑いの段階であることを忘れず、本人の言い分にも耳を傾ける姿勢を保ちましょう。

従事者への対応と並行して、こどもと保護者への対応も

自宅待機の手続きに気を取られて、こどもと保護者への対応が後回しになってはいけません。国のQ&Aは、疑いが生じたときの初期対応として、一時的な接触回避のほかに、保護者への連絡・説明や関係機関との連携を挙げています。

特に注意したいのが、こどもからの聴き取りです。国のQ&Aは、二次被害や記憶の汚染を防ぐため、やむを得ず初期の聴き取りを行う場合も最低限にとどめるよう求めています。何度も同じことを聞いたり、「〇〇されたの?」と答えを誘う聞き方をしたりすると、こどもを傷つけるだけでなく、その後の調査の妨げにもなります。聴き取りを行った場合は、こどもが使った言葉をそのまま記録しておきます。

被害を打ち明けたこどもには、話してくれたことを受け止め、責めない姿勢で接することが何より大切です。必要に応じて、医療機関や性暴力被害者の支援機関などの情報を保護者に伝えます。

調査の結果に応じた次の対応

自宅待機は、調査が終わるまでの措置です。調査の結果に応じて、次の対応に移ります。

調査の結果 対応の例
性暴力があったと合理的に判断された 就業規則の懲戒の定めに沿って対応する。懲戒だけでこどもとの接触を避けられない場合は、配置転換なども行う
重大な「不適切な行為」があったと判断された 性暴力があった場合に準じて、原則としてこどもと接する業務に就かせない
初回で比較的軽い「不適切な行為」だった 指導や研修の受講を命じ、記録を残して、その後の様子を注意深く見る
加害がなかったと分かった 職場に戻す。偏見やうわさが生じないよう配慮する

懲戒処分に進む場合は、調査のための聴き取りとは別に、本人に弁明の機会を与える必要があります。解説資料は、調査の聴き取りをしたからといって弁明の機会が不要になるわけではないとしています。調査の進め方は「事情確認の進め方」、申出直後の動き全体は「初動対応」もあわせてご覧ください。

施行前に整えておきたいこと

  • 就業規則に、自宅待機を命じることがある旨と、その間の賃金の扱いを書いておく
  • 被害の申出を受けたときの報告ルールと対応ルール(だれが何をするか)を決めておく
  • 派遣で来ている人について、「おそれ」があると認めたときに交代を求められる定めを派遣契約に入れておく
  • 犯罪の疑いがあるときは、警察に通報・相談する流れを決めておく

よくある質問

待機中は年次有給休暇を使ってもらってもよいですか?

年次有給休暇をいつ取るかは、原則として本人が決めます。事業者が一方的に有給休暇に振り替えることはできません。本人が希望する場合を除き、自宅待機として扱いましょう。

待機はどのくらいの期間まで続けてよいですか?

決まった上限はありませんが、国の資料は速やかに事実を確かめるよう求めています。期間が長くなるほど本人の不利益も大きくなるため、調査の段取りを早めに組むことが大切です。犯罪の疑いがあるときは、直ちに警察に通報・相談してください。

日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士・公認心理師の立場から、就業規則の整備、申出を受けたときの対応ルールづくり、こどもへの配慮を含めた初動の進め方をサポートしています。

規程整備から初動対応までを10ページにまとめた無料PDFを、11月5日改訂のQ&Aに合わせて改訂しました。詳しくはお役立ち資料(無料PDF)改訂のお知らせをご覧ください。

まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順序を確認できます。

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