
ニュースでは、日本版DBSが「子どもの安心につながる制度」として紹介されます。では、その「安心」は、事業所の中でどのような形になるのでしょうか。制度の言葉を現場の仕事に置き換えると、「だれを確認するのか」を決める対象者リスト、「何をしてはいけないか」を決める規程、そして「確認の結果が出たらどう動くか」を決める配置転換の流れの3つに集約されます。
この記事では、こども家庭庁の公表資料をもとに、この3つの作り方を整理します。
1.対象者リスト:3つの要件で範囲を決める
犯罪事実確認の対象は、事業所で働くすべての人ではありません。児童等に接する業務のうち、次の3つの要件を満たす業務に従事する人が対象になります。
- 支配性:子どもに対して、指導や世話をする立場にあるか
- 継続性:同じ子どもと、継続して関わるか
- 閉鎖性:ほかの人の目が届きにくい状況で関わることがあるか
リストを作るときは、職種名だけで判断せず、実際の業務内容から一人ひとりを確認します。雇用形態にかかわらず、アルバイトや業務委託の講師も含めて検討します。リストは、就業規則に記載する「対象業務従事者の範囲」の根拠にもなります。
2.規程:「決めておく」ことが現場を守る
こども家庭庁の準備ガイドでは、就業規則等に次の事項を定めるよう示しています。
- 対象業務従事者の範囲
- 児童対象性暴力等の禁止
- 犯罪事実確認への対応義務
- 懲戒事由
あわせて、どのような行為を「不適切な行為」とするかを定めます。私的な連絡先の交換や、必要のない1対1の状況など、性暴力の前段階となり得る行為をあらかじめ明確にしておくことで、従事者は迷わずに済み、周囲も声をかけやすくなります。具体例と定め方は「日本版DBSの「不適切な行為」とは?」で解説しています。
3.配置転換の流れ:結果が出る前に決めておく
犯罪事実確認の結果、特定性犯罪事実に該当すると分かった場合、事業者はその人を児童等に接する業務に従事させないための措置を講じる必要があります。現場で慌てないよう、次のような流れをあらかじめ文書にしておきます。
- 本人への通知と訂正請求の期間:該当とされる場合、確認書が事業者に届く前に本人へ通知が行われ、本人は通知を受けた日から2週間以内に訂正を請求できます。着任日や更新日の直前に手続を始めないことが大切です。
- 確認書の受領:確認書を見られる人は、情報管理規程で定めた担当者に限ります。
- 措置の決定:新規採用なら内定取消し等、現職者なら児童等に接しない業務への配置転換等を検討します。
- 記録と情報管理:経過を記録し、定められた期限に記録を廃棄します。
配置転換は、就業規則や労働契約にもとづく人事権の範囲で行います。職種を限定して雇っている場合や、配置転換先がない小規模な事業者では、検討すべき点が増えます。「配置転換と期間雇用」「配置転換先がないときは?」もあわせてご覧ください。
急な欠員のときの「いとま特例」
新たに業務に就く人の犯罪事実確認は、原則として業務を行わせるまでに済ませます。ただし、予見できない欠員など、確認を行う時間がないやむを得ない事情がある場合には、従事させた日から6か月以内で政令で定める期間内に確認を行う特例があります。この場合も、確認書が交付されるまでの間は、その人を子どもと二人きりにしないなどの安全確保措置が必要です。特例を使う場面と、そのときの配置のしかたも、流れの中に書き込んでおきましょう。
チェックは「1回」で終わらない
犯罪事実確認は、採用時に1回行えば終わりではありません。施行時の現職者の確認、新たに着任する人の確認、そしておおむね5年ごとの再確認が続きます。対象者リストは、異動や採用のたびに更新する「生きた名簿」として扱い、規程や配置転換の流れも、実際に運用して見えてきた課題に合わせて見直していくことが求められます。
従事者リストや規程をそろえる前に、自己申告を求めるかどうかを検討する場合は、東京都教委の自己申告確認と日本版DBSの違いもあわせてご覧ください。
まとめ
対象者リスト、規程、配置転換の流れの3つがそろうことで、制度の「安心」が、日々の業務の中で機能するようになります。まずは、自社の対象者リストを作るところから始めてみてください。
日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士・行政書士・公認心理師の立場から、対象者の範囲の検討、就業規則の見直し、防止措置の手順づくりまでをご支援しています。
ご相談は、お問い合わせフォームからどうぞ。
※本記事は、2026年9月28日時点で公表されているこども家庭庁の資料にもとづいています。最新の内容は、こども家庭庁の公式ページで必ずご確認ください。
現場でつまずきやすい5つのポイント
対象者リスト、規程、配置転換の流れは、考え方がわかっていても、実際に進めるとつまずきやすいところがあります。よくある例を挙げます。
- 職種名だけでリストを作ってしまう。同じ「事務職員」でも、子どもと接する場面がある人と、ない人がいます。実際の業務内容から、支配性、継続性、閉鎖性の3つの要件にあてはめて確認します。
- 兼務者や短期スタッフが抜け落ちる。繁忙期だけ来るスタッフ、複数の部署を兼ねている人、送迎のときだけ関わる人などは、リストから漏れやすい人たちです。勤務表や業務分担表とつき合わせて確認してください。
- 規程を作ったが、従事者に知らせていない。規程は、周知されてはじめて現場を守ります。説明の機会をつくり、受け取ったことの記録を残しておきましょう。
- 確認書を見られる人が、いつのまにか広がる。情報管理規程で定めた担当者以外は見られないようにします。担当者が休んだときの代わりの人も、あらかじめ決めておきます。
- 配置転換先が見つからない。結果が出てから探し始めると、間に合いません。子どもと接しない業務にどんなものがあるかを、事前に洗い出しておくことが大切です。
最初に「担当者」を決める
3つの作りこみを進めるとき、意外に大きいのが、担当者が決まっていないことによる停滞です。対象者リスト、規程、配置転換の流れのそれぞれについて、まとめ役を決めておくと、判断が必要な場面で迷いません。小さな事業所では、一人が兼ねても構いませんが、その人が不在のときの代わりの人は必ず決めておいてください。
あわせて、決めたことは書面に残し、年に一度は見直す機会をつくっておくと、現場に合った運用を続けやすくなります。
施行前の点検の目安
準備が進んだら、次の点をもう一度確認してみてください。対象者リストは、最新の勤務状況を反映しているか。規程は、従事者に知らされているか。確認書の閲覧者と保管場所は決まっているか。結果が出たときの連絡順序と、配置転換の候補は決まっているか。この4点がそろっていれば、現場の準備は大きく前進しています。
点検のなかで、対象者の範囲や規程の内容に迷う点が出てきたときは、こども家庭庁の準備ガイドや最新のQ&Aで確認し、判断に迷う場合は専門家に相談してください。
現場の担当者が、制度の趣旨を理解しておくことも大切です。手続きを「やらされる作業」と感じてしまうと、記録の漏れや運用の形骸化につながります。なぜこの手順が必要なのかを、事業所のなかで繰り返し確認してください。
まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。