
日本版DBS(こども性暴力防止法)では、犯罪事実確認の結果、従事者が特定性犯罪事実該当者と分かった場合などに、その人を児童等と接する業務に就かせないための「防止措置」が求められます。大きな法人であれば、事務部門や本部への配置転換も考えられます。しかし、学習塾や習い事教室、小規模な保育事業者などでは、「そもそも児童等と接しない業務がない」というケースが少なくありません。
この記事では、配置転換先がない事業者が何を検討し、どのような順序で判断すべきかを、法律の条文とこども家庭庁の公表資料をもとに解説します。義務対象事業者の方にも、認定申請を考えている民間事業者の方にも共通するポイントです。
1.防止措置の出発点は「対象業務に従事させない」こと
法第6条は、学校設置者等に対し、児童対象性暴力等が行われる「おそれがあると認めるとき」は、「その者を教員等としてその本来の業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めています。認定事業者にも、第20条の認定基準を通じて同様の措置が求められます。
こども家庭庁の検討会で示された益原大亮弁護士の資料では、防止措置の内容として「原則、当該者を対象業務に従事させない。(例:新規採用の場合は内定取消し等、現職者の場合は対象業務以外への配置転換等)」と示されています。法律が求めているのは「児童等と接する業務から外すこと」であり、その手段として、配置転換、内定取消し、場合によっては解雇が検討されるという構造です。
2.新規採用の場合:内定取消しの考え方
採用予定者について、特定性犯罪事実該当者であることが分かった場合、配置転換先がなければ内定取消しを検討することになります。ただし、内定取消しにも一般的な労働法のルールが及びます。同資料では、内定取消しが認められるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」を理由とする場合と整理されたうえで、「採用内定段階の調査で容易に知ることのできた事情が、採用内定後に発覚したとしても、その事情があることを理由として採用内定の取消しをすることは認められない可能性がある」と注意が促されています。
そのため、就業規則や内定通知書に、内定取消事由・試用期間中の解約事由として「重要な経歴の詐称」を定めておくこと、採用時に特定性犯罪事実該当者でないことを確認する手順を設けておくことが、実務上の備えになります。
3.現職者の場合:まず配置転換等を尽くしたかを確認する
現職者について該当が判明したときは、いきなり解雇に進むのではなく、次のような選択肢を一つずつ検討した記録を残すことが大切です。
- 事務、経理、教材作成、施設管理など、児童等と接しない業務への配置転換
- 同一法人内の他の事業所・他の事業部門への異動
- 児童等がいない時間帯に限った業務への変更
配置転換は、就業規則等にもとづく配転命令権によって命じるのが原則です。ただし、職種を限定した労働契約の場合は、本人の個別の同意がなければ配置転換を命じることはできないとされています。
4.それでも配置転換先がない場合の普通解雇
小規模事業者で、どう検討しても児童等と接しない業務がない場合、最後の選択肢として普通解雇が問題になります。益原弁護士の資料では、配置転換が可能な場合はまず配置転換等を優先し、解雇回避努力を尽くしたうえで、他に代替手段がなく、解雇以外の選択肢がないような場合に普通解雇が認められ得るという考え方が示されています。また、事業所の規模や業務内容から解雇以外の選択肢が取り得ないという事情は、解雇の有効性の判断で重要な要素として考慮され得るものの、最終的には個別の事案ごとに、裁判所が客観的合理性・社会的相当性の観点から判断するとされています。
つまり、「配置転換先がないから解雇できる」と自動的に決まるわけではありません。労働契約法第16条の解雇権濫用法理が適用されることを前提に、検討の過程を書面で残しておくことが重要です。なお、期間雇用の従事者を契約期間の途中で解雇する場合は、労働契約法第17条第1項により「やむを得ない事由」が必要となり、正社員よりもさらに慎重な判断が求められます。
5.判断の前に確認しておきたい手続き
犯罪事実確認の結果、特定性犯罪事実該当者とされる場合、本人に通知が行われ(法第35条第5項)、本人は通知を受けた日から2週間以内に訂正請求をすることができます(法第37条第2項)。事業者の判断は、こうした手続きの流れを踏まえて行う必要があります。
また、犯罪事実確認書に記載された情報は、厳格な管理が求められる情報です。取り扱える人を限定し、秘密を守る義務があります(法第39条)。確認書の記録は、確認日から起算して5年を経過した日の属する年度の末日から30日を経過する日までに廃棄・消去しなければなりません(法第38条第1項)。こども家庭庁のQ&Aでも、配置転換や解雇等の検討・対応を、確認書を閲覧できる職員だけで行う必要があるかという点が取り上げられています。小規模事業者では、判断に関わる人と情報を扱う人の範囲を、あらかじめ決めておくとよいでしょう。
6.小規模事業者が今から準備しておくこと
- 就業規則に、配転命令権、内定取消事由、懲戒事由(重要な経歴の詐称等)を定める
- 職種限定の契約になっていないか、雇用契約書を確認する
- 児童等と接しない業務として、どのような仕事が社内にあり得るかを洗い出しておく
- 該当者が判明した場合の対応フロー(誰が、何を、どの順で検討するか)を決めておく
- 犯罪事実確認記録を扱う担当者と保管・廃棄のルールを決めておく
とくに認定申請を考えている事業者は、こうした体制を整えたうえで申請に臨むことになります。義務対象事業者も、施行時現職者の確認が始まる前に、社内の準備を進めておくことが大切です。
まとめ
児童等と接しない業務がない事業者でも、防止措置の義務がなくなるわけではありません。一方で、配置転換先がないことだけを理由に、当然に解雇が認められるわけでもありません。「従事させない措置」を実現するために何を検討したかを一つずつ記録し、最後の手段として解雇を検討するという順序を守ることが、事業者自身を守ることにもつながります。解雇を検討するときの手続きと注意点は、日本版DBS 解雇の注意点で整理しています。
日本版DBS認定運用サポートでは、社会保険労務士・行政書士として、就業規則の整備、対応フローの作成、認定申請の準備まで一体でご支援しています。判断に迷うケースがあれば、お問い合わせからご相談ください。
※本記事は2026年9月時点の法令、施行ガイドライン(2026年9月改訂)、Q&A(2026年9月18日改訂)等にもとづいています。個別の事案については、最新の公表資料と専門家の確認のうえでご判断ください。
まだ何も決まっていない段階でもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。自社が対象になるかどうか、先に整える書類、着手する順番を確認できます。
参考資料
- 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法律第69号)
- こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(2026年9月改訂)
- こども家庭庁「こども性暴力防止法に関するQ&A」(2026年9月18日改訂)(いずれもこども家庭庁の法律ページに掲載。2026年9月27日確認)
- 益原大亮「こども性暴力防止法に基づく防止措置と労働法制等を踏まえた留意点」(こども家庭庁 検討会資料5-8)
- 労働契約法 第16条・第17条