
こども性暴力防止法(令和6年法律第69号)では、子どもに対する性暴力等の早期把握に向けた安全確保措置を定めています。学校や認可保育所などの義務対象事業者に加え、国の認定を受けた民間教育保育等事業者(認定事業者)においても、これらの措置を実施することが求められます。施行日は2026年(令和8年)12月25日です。法第5条や第20条などを根拠とする早期把握の取り組みについて、現場で実践しやすいポイントを整理しました。(出典:こども家庭庁「児童対象性暴力等の防止等に関する横断的指針」)
早期把握が求められる背景と3つの措置
子どもへの性暴力は、被害を受けた子ども自身が何が起きているのかを正しく認識できなかったり、不安や恐怖から自分から言い出せなかったりすることが少なくありません。大人が日頃の様子の変化に気づくことで、事態の把握につながるケースもあります。
こうした実態を踏まえ、法律や関係規則(規則第8条等)では、対象事業者に対して早期把握のための3つの措置を求めています。
- 子どもに対する日常的な観察
- 発達段階や特性に応じた定期的な面談やアンケートの実施
- 適切な報告ルールおよび対応ルールの策定と周知
措置1:子どもに対する日常的な観察の視点
日常の関わりの中で子どもの心身や行動の変化に気を配ることは、早期把握の基本です。ただし、体調不良や家庭環境の変化など、性被害以外の要因でも子どもの様子が変わることは十分にあります。特定の変化が見られたからといって、観察した様子だけで直ちに性被害が生じていると断定することはできません。
現場での観察にあたっては、以下の点に配慮することが大切です。
- 担当者一人だけに判断を委ねず、可能な限り複数の職員で見守る体制をつくる
- 気になる様子が見られた場合は、「元気がないみたいだけど大丈夫?」など穏やかに声を掛ける
- 繰り返し事情を聞き出したり、回答を強要したりしない。いつでも話せることを伝え、安心できる環境で見守る
- 子どもを責めるような言動は厳に慎み、心身の安全を最優先に確保したうえで、必要に応じて児童相談所や警察、医療機関などの専門機関につなぐ
- 現場の職員同士が、日頃の気づきや小さな違和感を共有しやすい職場環境を整える
措置2:定期的な面談やアンケートの工夫
相談を待つだけでなく、定期的に話を聞く機会を設けることも有効です。子どもの年齢や発達段階、個別の特性に合わせた配慮が求められます。
- 未就学児:質問用紙による回答は難しいため、日頃の観察や日常会話を通じた見守りが中心となります。
- 小学生:面談やアンケートを実施する前に、質問の趣旨や意味をわかりやすい言葉で説明します。
- 障害のある子ども:イラストや点字、分かりやすい表現を活用するなど、障害の特性に応じたコミュニケーション方法を工夫します。
アンケートを実施する際は、既存の生活アンケート等に関連する設問を数問含める方法や、タブレット等の端末を活用する方法があります。周囲から回答内容が見えないように配慮し、安心して回答できる環境を整えることが大切です。
措置3:報告ルールと対応ルールの策定・周知
疑いや兆候を把握した際に、現場が迷わず動けるよう手順を定めておきます。
報告ルールで整理すべき事項
何か問題が生じた際、誰に、いつ、どのような手段で報告するかを明確にします。管理職や責任者が関与している可能性も考慮し、通常の指揮命令系統とは別の報告先や、相談しやすい窓口の設置も検討します。
対応ルールにおける基本姿勢
報告を受けた後の対応手順には、以下の配慮を盛り込みます。
- 初期対応を行う責任者や対応体制をあらかじめ決めておく
- 単独で判断せず、複数の担当者によるチームで客観的に対応する
- 疑いやおそれの段階であっても軽く見なさず、事実確認の手順に従って丁寧に対応する
- 報告者や当事者のプライバシーを厳格に保護し、相談や報告を行ったことを理由に不利益な扱いをしない
相談体制の整備と窓口の周知
早期把握の措置とあわせて、子どもや保護者がいつでも相談できる体制を整えることも求められます。
- 事業所内における相談窓口の設置や担当者の配置
- 相談員の性別への配慮や、文字(手紙・メール・専用フォーム等)による相談手段の提供
- 公的な外部相談窓口(24時間子供SOSダイヤルやこどもの人権110番など)の案内掲示やカード配布
匿名で相談できることや、相談した後にどのような支援が行われるかを子どもに分かりやすく伝えておくことで、相談への不安を和らげることができます。
日常の観察で留意したい子どもの変化(身体・心理・行動)
性暴力の被害を受けた子どもには、心や体、日常の行動にさまざまな変化が現れる場合があります。ただし、これらの変化は家庭環境の変化や他のストレス、体調不良など、性被害以外の原因でも生じる点に留意が必要です。特定の兆候が見られたからといって、こうした変化だけで性被害の有無を性急に決めつけることはできません。
身体面に見られる変化
頭痛、腹痛、吐き気などの体調不良や、不眠、怖い夢を見ること、食欲の変化、排泄のトラブルなどが生じる場合があります。
心理面に見られる変化
普段に比べて元気がなくなる、情緒が不安定になる、集中力が低下する、自分を過度に責めたり卑下したりするといった様子が見られる場合があります。
行動面に見られる変化
人との接し方や距離感が急に変わる、体に触れられることを嫌がる、性的な言動に変化が見られる、自傷行為が見られるなどの行動に注意を払う必要があります。また、特定の大人や仲間を過剰に避ける、あるいは不自然に近づこうとするといった関係性の変化が現れる場合もあります。
現場における見守りと対応の姿勢
複数の職員による多角的な見守り
最も身近にいる担当職員が加害に関与している可能性も考慮し、特定の担当者一人だけに判断を委ねず、複数の職員の目で日常の様子を見守る体制が有効です。
安心できる関わりと専門窓口への連携
「元気がないように見えるけれど大丈夫?」といった日常的な声掛けは有効ですが、子どもがすぐに被害を打ち明けるとは限りません。ここで重要なのは、現場の職員が被害の詳細を聞き出そうとしたり、繰り返し質問したり、誘導するような聞き取りを行ったりしないことです。子どもに話すことを決して強要せず、まずは「いつでも話を聞くよ」と伝え、子どもの言葉をありのままに受け止めて心身の安全を最優先に確保します。そのうえで、事業所で定めた報告手順に従って責任者に共有し、児童相談所や警察、医療機関などの専門的な支援へ適切につなげてください。
未就学児や障害のある子どもへの配慮
幼少期の子どもは、何が起きたのかを認識できていない場合もあります。日頃の行動や様子の変化に気を配り、必要に応じて保護者の気づきを丁寧に伺うことも参考になります。また、障害のある子どもの場合は、強い怒りやパニック、急に話さなくなる、身についていた身の回りの動作ができなくなるといった形で現れる場合があります。意思疎通の難しさに配慮し、小さなサインを見過ごさない姿勢が求められます。
まとめ
日常の観察、面談やアンケート、報告・対応ルールの整備、そして相談窓口の設置は、事業所内で子どもの尊厳と安全を守るための基礎となる取り組みです。形式的なルール作りに留まらず、子どもの安心を第一に考えた運用を整えてください。制度全体の概要については、こども性暴力防止法の概要でも確認できます。
※本記事の内容は、2026年10月13日時点で、こども性暴力防止法・施行規則・施行ガイドライン(令和8年9月2日改訂版)・こども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂版)と照合しています。
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