
こども性暴力防止法施行ガイドラインでは、性暴力そのものだけでなく、それにつながりうる「不適切な行為」への対応が求められています。ところが、この「不適切な行為」の判断こそ、現場で最も迷いやすい部分です。
「頭をなでるのは不適切なのか」「保護者の了解があれば個別に連絡してもよいのか」。こうした問いに、その場の感覚で答えていては、職員への指導も懲戒処分の判断もぶれてしまいます。この記事では、日本法令「SR」第82号に寄稿した内容をもとに、不適切な行為を管理するための行動基準(服務規律)の作り方を解説します。
1.「性的な意図」ではなく「行為の類型」で管理する
不適切な行為かどうかを、「性的な意図があったかどうか」という本人の内心で判断しようとすると、証明が難しく、判断も人によって分かれます。そこで有効なのが、「境界を越えやすい行為」をあらかじめ類型として定め、原則として制限したうえで、例外を認める条件を明確にしておく方法です。
その背景にあるのが、次の2つの考え方です。
- バウンダリー:「この先には入ってほしくない」という、自分と他人の心と身体の境界線
- グルーミング:境界線を巧みに侵害し、被害者との信頼関係を築くことで、性的な関係や支配につなげる「手なずけ」の手口
グルーミングは、一つひとつの行為だけを見ると「親切」や「熱心な指導」に見えることがあります。だからこそ、行為の類型でルール化しておくことが、予防につながるのです。
2.不適切な行為の6類型と服務規律のポイント
事業の種類を問わず共通して押さえておきたい類型は、次の6つです。
- ①密室・死角での1対1:人目のない部屋や倉庫での個別指導などがリスクになります。原則として、子どもと密室や死角で1対1になる状況をつくらない。やむを得ない場合は、ドアを開放する、ガラス越しなど外から見える状態にする、時間を最小限にするなどの条件のもとで認め、事前または事後に管理職へ報告する。
- ②私的連絡(SNS等):個人のLINEやDM、消えるメッセージ、夜間の連絡などがリスクになります。業務外の私的手段で子どもと連絡を取らない。業務上必要な場合は、会社指定の公式手段を使い、保護者または管理者を含め、時間帯を制限する。
- ③身体接触:不必要に頭をなでる、膝に乗せる、長時間または頻繁に接触するといった行為がリスクになります。業務上必要な範囲に限り、必要最小限とする。介助や救護など指導上欠かせない場合は、見える状態で、範囲・時間を限定し、保護者への事前説明を行う。
- ④送迎・業務外の接触:業務外で個別に会う、同行する、送迎することはしない。災害や急病などの緊急時に限り、管理職や保護者への即時連絡と事後報告を条件に認める。
- ⑤撮影・画像データの保存:子どもの撮影・録画は会社が定める手順と端末で行い、私物端末での撮影や個人保存はしない。広報や記録で必要な場合も、会社指定の端末を使い、保存先を会社の管理領域に限り、アクセス権限を管理し、目的外に利用しないことを条件とする。
- ⑥特別扱い・秘密の共有・金品の授受:特定の子どもだけにプレゼントを渡す、「二人だけの秘密」をつくるといった行為はしない。行事等で全員に一律に提供するものは例外とする。個別の対応が必要な場合は、管理職と保護者の承諾を得て、透明性を確保し、記録を残す。
ポイントは、禁止事項だけを並べないことです。例外を認める条件(可視化、管理職への報告、保護者の承諾など)までセットで定めておくと、職員は「何をすれば認められるのか」がわかり、必要な関わりまで萎縮させずに済みます。
3.迷ったときの「5つの基準」
6類型に当てはまらない場面や、例外にあたるかどうか迷う場面もあります。そこで、業務上の必要性を判断するための共通の物差しとして、次の5つの基準をチェックシートにしておくことをおすすめします。
- 目的:その行為は、教育・保育・安全確保の目的に照らして本当に必要か
- 代替可能性:接触・密室化・私的連絡を避ける代わりの手段で、目的を達成できないか
- 透明性:第三者の視点や記録で説明できるか(誰に見られても適切だと説明できるか)
- 最小化:時間・頻度・接触範囲を必要最小限にしているか
- 同意:子ども本人や保護者に事前に説明し、同意を確認したか
運用ルールは、「5つの基準のうち1つでも満たさない行為は、現場の判断だけで実施せず、管理職に相談し、代わりの手段または実施条件(可視化など)を決める」とするのが基本です。ただし、転倒防止や救護などの緊急対応はこの限りではなく、必要最小限の範囲での実施を妨げないことも明記しておきましょう。
管理職に相談して実施を認めた場合は、その理由と条件を簡単に記録しておくと、後から「なぜ認めたのか」を説明できます。記録が積み重なれば、自社にとっての判断の目安にもなり、6類型の例外条件を見直す材料にもなります。
4.服務規律を「使えるルール」にするために
服務規律は、就業規則に書いただけでは機能しません。研修では、6類型の具体例を示しながら、「なぜその行為が子どもの境界線を越えるおそれがあるのか」を、子どもの権利の視点から説明することが大切です。
また、職員同士が「その関わり方は5つの基準に照らしてどうか」と声をかけ合える雰囲気づくりも欠かせません。互いに確認し合える職場では、不適切な行為が早い段階で是正されるだけでなく、職員自身が身に覚えのない疑いをかけられるリスクも減らせます。
まとめ
不適切な行為の管理は、職員を縛るためのものではありません。子どもの安全を守りながら、職員が安心して子どもと関われるようにするための「共通言語」です。
当事務所では、事業所の実態に合わせた服務規律の作成や、5つの基準を使った職員研修をお手伝いしています。日本版DBSの認定に向けた準備にお役立てください。