日本版DBS認定取得の壁:「就業規則」と「情報管理」

日本版DBS認定取得の壁:「就業規則」と「情報管理」

「就業規則」と「情報管理」の具体的対策

2026年12月の日本版DBS(こども性暴力防止法)施行に向け、多くの学習塾やスクール事業者が関心を寄せています。しかし、認定取得は単に「申請書を出せば終わり」ではありません。

実は、認定審査において最も重要視される可能性が高いのは、「性犯罪歴のあるスタッフが見つかったとき、法的に正しい対応ができる社内ルールがあるか」そして「極めて機微な個人情報を漏洩させない体制があるか」という点です。

今回は、専門家の視点から、認定取得の難所の一つである「就業規則の改定」「情報管理規程の整備」について、実務的なポイントを解説します。

1. なぜ「就業規則」の改定が必須なのか?

「日本版DBSで性犯罪歴があるとわかったら、解雇すればいいだけでしょ?」
経営者の方からよくいただく質問ですが、これは大きな間違いであり、重大な経営リスクになります。

日本の労働法制において、過去の犯罪歴のみを理由とした即時解雇は、「解雇権の濫用」として無効になる可能性が極めて高いのです。だからこそ、今のうちから就業規則という「会社の憲法」を変えておく必要があります。

改定ポイント①:「配置転換」の根拠条項を入れる

日本版DBSでは、性犯罪歴が確認された場合、原則として「こどもと接する業務」から外すことが求められます。しかし、解雇は最終手段です。まずは「配置転換(異動)」を検討しなければなりません。

もし、雇用契約書や就業規則に「職種を限定する(例:塾講師しかさせない)」という取り決めがあった場合、会社は一方的に配置転換を命じることができず、手詰まりになります。
そのため、就業規則には以下の要素を盛り込む必要があります。

  • 配置転換の命令権:
    「業務上の必要性(こども性暴力防止法の措置を含む)により、配置転換を命じることがある」と明記する。
  • 職種限定の解除:
    採用時の契約において、職種限定の合意がない状態、あるいは変更の余地を残しておく。

改定ポイント②:「懲戒事由」の具体化

「性犯罪歴を隠して入社した」場合や、「会社が行う確認手続きを拒否した」場合に、懲戒処分を行うための根拠が必要です。

  • 経歴詐称:
    「重要な経歴(特定性犯罪歴を含む)を詐称していたとき」を懲戒解雇事由に追加する。
  • 協力義務違反:
    「正当な理由なく、日本版DBSの確認手続きを拒否したとき」を懲戒事由とする。

これらが明文化されていないと、いざ問題社員への対応が必要になった際に、会社側が不利な立場に追い込まれてしまいます。

2. 刑事罰のリスクも?「情報管理規程」の落とし穴

日本版DBSで取り扱う「犯罪事実確認書(犯歴情報)」は、要配慮個人情報の中でも最高レベルの機密情報です。
もし、この情報を適切に管理せず漏洩させた場合、こども性暴力防止法に基づき「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります。また、認定の取消しや社会的信用の失墜にも直結します。

「閲覧権限者」を厳格に決める

中小規模の事業者であっても、以下の体制構築が求められます。

責任者と担当者の「2名体制」が原則

社長一人で管理するのではなく、相互チェックのために責任者(統括)と事務取扱担当者の最低2名を選任することが推奨されます。

NG例 教室長であれば、誰でも閲覧可能状態。
OK例 本部の代表者と人事部長のみがアクセス権限を持つ。

「物理的・技術的」な安全管理措置

情報管理規程(ルールブック)を作成するだけでなく、物理的な環境整備も審査の対象となります。

  • 物理的措置:
    情報を扱うパソコンは、パーテーションで区切られた場所や個室で使用する(覗き見防止)。紙で出力した場合は、鍵付きキャビネットで保管し、持ち出しを禁止する。
  • 技術的措置:
    専用のID/パスワードを設定し、アクセスログ(誰がいつ見たか)を残す。

行政書士として規程を作成する際は、事業者の規模に応じた「最低限求められる措置」と「標準的措置」を使い分け、現場で運用可能な(絵に描いた餅にならない)ルールを策定します。

3. 認定取得までの「3ヶ月」スケジュール

「まだ2026年の話でしょう?」と油断してはいけません。
就業規則の変更には従業員代表への意見聴取や労基署への届出が必要ですし、情報管理体制の構築にはシステム的な準備も必要です。

一般的な中小事業者が認定申請を行うまでの標準的なロードマップは以下の通りです。

【フェーズ1:現状診断と方針決定】(1ヶ月目)

  • 自社が「認定対象」になるかどうかの要件判定(対象・期間・対面・場所・人数の5要件)。
  • GビズIDプライムの取得申請(発行に数週間かかるため最優先)。
  • 社内の情報管理責任者の選定。

【フェーズ2:規程作成と労務整備】(2ヶ月目)

  • 「児童対象性暴力等対処規程」の作成(ひな型のカスタマイズ)。
  • 「情報管理規程」の作成。
  • 就業規則の改定案作成と、社労士によるリーガルチェック。
  • 採用誓約書、求人票の文面変更。

【フェーズ3:運用実績作りと申請】(3ヶ月目)

  • 全従業員への説明会と、性暴力防止研修の実施(実績記録が必要です)。
  • 相談窓口の設置と周知。
  • こども性暴力防止法関連システムへの事業者登録と認定申請。

4. 専門家を活用するメリット

ここまでお読みいただき、「自社だけで対応するのは大変そうだ」と感じられたかもしれません。
日本版DBSの対応は、「行政手続き(行政書士)」「労務管理(社労士)」「心のケア・組織風土(公認心理師)」の3つの専門性が交差する複雑な領域です。

当事務所のトリプルライセンス・サポート

当事務所では、これら3つの国家資格を持つ代表が、窓口を一本化してサポートします。

  1. 行政書士として:
    複雑な「対処規程」「情報管理規程」を、貴社の実態に合わせて作成・申請代行します。
  2. 社労士として:
    「解雇無効リスク」を防ぐ就業規則の改定や、配置転換の実務アドバイスを行います。
  3. 公認心理師として:
    制度の形骸化を防ぐ「実効性のある研修」や、従業員の心理的ケアに関する相談に対応します。

また、万が一の紛争に備え、日本版DBSに精通した弁護士との連携体制も整えております。

まとめ:準備は「早すぎる」ことはありません

早期に認定を取得し、「当社は国から認定された安全なスクールです」とアピールすることは、少子化そしてコンプライアンス時代における強力なブランディングになります。

※本記事の内容は、令和8年1月27日現在における下記の資料に基づいたものです。

・こども性暴力防止法施行ガイドライン
・横断指針

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