
日本版DBSと子どもへの支援における視点
2026年(令和8年)12月25日に施行される「こども性暴力防止法」(日本版DBS)は、子どもと接する業務に就く従事者の特定性犯罪前科を確認し、教育や保育等の現場における性被害を防止するための法律です。学校や認可保育所などの義務対象事業者に加え、学習塾やスポーツクラブなどの民間教育保育等事業者についても、国の認定を受けることで同等の措置を実施する枠組みが設けられています。民間事業者における認定取得は任意ですが、認定を受けた事業者は法律上の義務として各種措置を実施する必要があります。(出典:こども家庭庁「児童対象性暴力等の防止等に関する横断的指針」)
性被害などのつらい体験は子どもの心身に大きな負担を与え、さまざまなトラウマ反応を引き起こす要因になり得ます。ただし、そうした反応の現れ方には個人差があり、周囲の適切な支えや安全な環境のもとで回復していくことが十分に可能です。子どもと接する現場では、過度な決めつけを避けつつ、心身の安心を守る配慮が求められます。
支援の参考理念:トラウマインフォームドケア
トラウマへの理解を深める支援の参考理念として、米国薬物乱用精神保健管理局(SAMHSA)が提唱する「トラウマインフォームドケア」が広く知られています。これは、過去の傷つき体験の影響を考慮し、支援の場で再び恐怖や傷つきを与えない(再トラウマ化を防ぐ)関わり方を組織全体で大切にするアプローチです。詳細な理念については、SAMHSAの公式ページ「Trauma-Informed Approaches and Programs」で案内されています。
なお、SAMHSAの理念は支援の質を高めるための参考指針であり、こども性暴力防止法が定める法定義務そのものとは明確に区別して理解する必要があります。法的な義務の履行を基盤としつつ、子どもに接する日常的な配慮の参考として取り入れることが実務上役立ちます。
現場で意識したい安全・信頼・選択の配慮
SAMHSAが示す原則を現場の日常業務に生かす場合、特に「安全」「信頼」「選択」の観点から以下のような具体的な取り組みが考えられます。
- 安全の確保:施設内の死角を減らし、密室で子どもと1対1にならない環境を整えるなど、子どもが物理的にも心理的にも脅威を感じずに安心して過ごせる場をつくります。
- 信頼性の向上:不適切な行為を明確に禁止するルールを組織で共有し、子どもや保護者に対して誠実で一貫した態度で接することで、安心できる関係性を築きます。
- 選択の尊重:子どもに対して指示を一方的に押しつけるのではなく、日常の活動の中で本人の意思やペースをできる限り尊重し、自分の気持ちを安心して表明できる機会を確保します。
専門家との連携と事業所職員の役割分担
子どもの心身の変化に気づいた際、事業所の職員が自らトラウマの有無を判断したり、心理的な診断・治療を行ったりすることは適切ではありません。日常の支援現場における職員の役割は、医療行為や専門面接を行うことではなく、子どもの安全を最優先に保護することです。
子どもの言葉をありのままに受け止め、話すことを強要せずに安心できる居場所を保ちながら、事業所で定めた手順に従って管理責任者に共有します。そのうえで、児童相談所や医療機関、専門の心理相談機関などの適切な専門家・専門窓口へ速やかにつなぐ体制を整えてください。
法律に基づく犯罪事実確認の手続きと適正な情報管理
こども性暴力防止法における犯罪事実確認は、事業者がこども家庭庁に申請を行い、国が法務省等と連携して特定性犯罪前科の有無を確認する手続きです。前科に該当する事実が確認された場合、事業者に結果が直接交付される前に、まず対象となる本人へ事前通知が行われます。本人には内容の訂正を請求できる機会が法的に保障されており、所定の手続きを経た後に事業者へ確認書が交付されます。
確認結果などの「犯罪事実確認記録等」は極めて機微性の高い個人情報です。事業者は管理責任者を配置し、取扱者を必要最小限に限定するとともに、システム外への記録保存を最小限に抑える必要があります。また、法第38条に基づき、記録の種類や離職・不採用などの状況に応じた法定期限までに、確実に消去・廃棄しなければなりません。
組織全体で取組を続ける
責任者が方針を示し、相談への対応手順を文書化します。研修では子どもへの声の掛け方や情報共有の範囲を確認し、子どもや保護者の意見も踏まえて改善しましょう。研修、相談体制、被害が疑われる場合の対応は、法令とガイドラインに沿って整備することが前提です。
まとめ
こども性暴力防止法の施行(2026年12月25日)に向け、各事業者は自社の事業種別に応じた法定義務の履行を着実に進める必要があります。あわせて、子どもの安心や尊厳を守る関わり方を組織全体で共有し、専門機関と連携しながら、子どもたちが安心して過ごせる環境を整えていくことが大切です。
※本記事の内容は、令和8年3月24日時点におけるこども性暴力防止法施行ガイドラインおよび横断指針の公表資料に基づいています。